岡 田それまで僕は……と言っても子供時代だけど、ものすごく人前に立つのが苦手で、人前ではよう話せなかったんよ。信じられへんかもしれんけど(笑)。
平 尾えっ、岡田さんもですか? 実は僕もそうだったんですよ。僕も小学校のころまで人前に出るのが苦手でね。それが中学入ってラグビーをやるようになって、自分の周りが変わってきたのをきっかけに、ちょっとづつ積極的になれるようになったんですよ。
岡 田へえ〜。平尾もオレと似たような経験があったんだ?
平 尾そうなんですよ。小学校のころまで人前で喋るのが大嫌いだったんですよ。ところが中学になってラグビー始めて、それがおもろいものだから頑張る。そうすると、それまで自分の中に眠っていた自信を、どこかで取り戻すんですね。自信を取り戻すと、それが自然に周りにも伝わるから、例えば今までなったことがない学級委員にも選ばれたりとか。そうなると、今度は人前で喋らなければならなくなる。本当はそれが嫌で、嫌で仕方ないんだけど、ラグビーは好きでやりたいからそんなこともやるようになる。そうやってちょっとづつ時間かけて変わっていったんです。
岡 田なるほど、ラグビーを始めたことで自信を取り戻せたんだ。
平 尾そうなんですよ。で、3年生のときにキャプテンになったんです。中学、高校のキャプテンというのは、ほとんど先生の指名じゃないですか? 僕の場合も最初は中学2年の2学期が終わったときに先生から指名されて。先生から言われて以上、やらなければ仕方がない。当時のラグビー部は、まだ練習をさぼりたい連中が多かったから、なんとかそんな連中と折り合いをつけて、練習もしなければいけないし、ゲームにも勝ちたいしということで、キャプテンとしてみんなを説得することを覚えていったんですね。
岡 田僕の場合も中学、高校、大学とずっとキャプテンやって、それでちょっとずつは変わってきたんだけど、本当に完全に乗り越えたのは、やっぱりワールドカップだったね。それまでは、いつもうまく喋らなければいけないと、どこか格好つけてたんだけど。例えば……僕は結婚が早くて学生結婚だったんだけど、結婚式のときに親父がみんなの前でスピーチしてくれたんだよ。それを女房と二人で緊張して、こんなになって(立ち上がって、気をつけの姿勢で)聞いていたんだけど、そのとき、ふと「オレも子供が生まれて父親になったら、こうやって人前でお礼の挨拶しなければいけないのかな?」と思ったら、「でけへんわ! オレには絶対、人前でこんなことしゃべられへんわ!」と。それぐらいやったからね(笑)。
平 尾その気持ち、僕もよく分かりますよ(笑)。僕もそんなにいうほど、殻がバーンと剥けたのは早くはなくて、今、岡田さんが言われたように、自分をよく見せようというような気持ちがどこかでなくなったとき、ようやく一皮剥けたんだと思います。だから、今の結婚式のスピーチでも、いいことを言ってやろうとか思っているうちはだめで、何も考えずに行って、その場の空気で“素”の自分を出したほうが、うまく自分の気持ちが喋れる。
岡 田うん。結局はそこなんだよ。自分を背丈以上に見せようとするから苦しい。自分は「こんなもんなんです」と、正直に見せようとすれば全然苦しくない。それに気づいたのが、僕の場合はたぶん、代表監督のときだっただろうと思う。実際、自分の決断一つでワールドカップに出れるかどうかを考えたら監督なんて怖くてたまらんよ。その時に「もうええや、(結果は)おいとけ!」と言えるかどうか。「いまさらオレがベンゲルやザガロになれるわけでもないやろ。(結果が悪かったら)岡田武史を監督に選んだ協会が悪いんや!」というぐらい(笑)、本当に開き直れるかどうか。それも監督をやる、大事な資質の一つかもしれんね。 |