平 尾それともうひとつ、リーダーの資質として大事なのは「卑しさのないこと」だと思います。卑しさというのは、ちょっとした目先の損得に動かされるという意味なんですが、リーダーにそれがあったらすぐに選手に分かるってしまう。それでは人は動かない。

岡 田もっと言うなら、「私利私欲があってはいけない」という意味?

平 尾僕は欲深いことは悪くはないと思うんですよ。選手として勝ちにこだわるとか、そうすれば自分の年俸が上がるんだという考え方は間違ってはいないと思います。そういった大きな“得”ではなくて、もっと目先の小さな私利私欲というのがありますね。それがあると、選手には敏感に伝わりますから絶対にチームは動かない。

岡 田それで言うと、僕はシーズンの初めに選手には必ず次のように言ってる。「オレはどんなに能力のない選手でも、自分に向かってくる人間は絶対に見捨てない。1年間、まったくゲームに出られないかもしれないけど、1年終わったら“自分は上手くなった”と思うにしてやる自信はある。そのかわり、ゲームに出られないからといって、ふてくされてしまうような人間は相手にしいない」と。そう言っている手前、シーズン中にこちらから選手を出すようなことは絶対にしない。ただ、本人がチャンスを求めてどうしても出たいという場合は仕方がないとは思っているんだけど、そんな時、いつも思うのは「オレはこの1年間、本当に私利私欲なくメンバーを決めてきたかな。みんなに公平にチャンスを与えることが出来ただろうか……」ということなんだ。

平 尾その時に監督が私利私欲でメンバーを決めていたら、絶対に選手は反感を持ちますからね。

岡 田そうなんだよ。だから僕は絶対にそれだけはしない。ワールドカップの本戦を前にカズを最終メンバーから外した時も、僕は「日本代表が勝つためにはどうしたらいいか」ということを真剣に考えて判断した。その自信があったから、逃げも隠れもしなかったし、今の自分に後ろめたさも何もない。実際にカズとは今でも仲がいいし、いつも「岡田さん」と言って来てくれる。そういう意味では監督の資質として「私利私欲のない判断ができるかどうか」というのは大事なことだと思うね。

平 尾そうなんですね。それは選手についても言えることで、チームメイトがゲーム中にミスをしても、いつも私利私欲なくチームのために尽くしている選手なら、「あいつだったらしょうがない」「そんなミス、すぐにオレたちが取り返してやる」という気になれる。そのためには普段から真剣に練習に取り組んでいる姿を見せて、周りの選手の信頼を得るしか方法がない。結局はそこに行き着くと思います。本日は長時間に渡ってありがとうございました。

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