平 尾新日鉄ではバレー部やラグビー部をクラブ化したわけですが、これまで会社だけで所有していたスポーツ部を、地域の他企業や住民、自治体の手を借りながらみんなで上手にチームを作っていこうということですよね。
中垣内そうですね。
平 尾その考え方は世の中の流れに即したもので、新日鉄はいち早く行動を起こされたと僕は注目しているんです。ただ、「地域密着型総合スポーツクラブ」といっても、それを利用してもらいたい一般の人たちには、実際には何のことかわからないという人がたくさんいるわけです。そういう現状を見ると、日本に総合型スポーツクラブを定着させるのには、かなり時間がかかると思っています。だから、政府や自治体、企業が一体となって、頑張って支援していかないとうまくいかないのではないかと。
中垣内そう思います。いきなり、自前でやりなさいといわれても、厳しいですからね。
平 尾そういった援助を受けている間にプレーヤーやサポーターを醸成させて、自主運営ができる体質作りをしていく必要があるでしょうね。たとえば、一般の人たちは「スポーツはいいものだ」と思いながらも、受益者負担でスポーツを行うという考え方があまり根付いていないんですね。というのも、われわれはスポーツを義務教育のなかで「体育」としてやってきたために、お金を払ってスポーツをするという意識が希薄なんです。われわれが目指す「地域密着型総合スポーツクラブ」は、学校のグラウンドなど地域の施設を利用しながら行うもので、いわゆる現在あるような「スポーツクラブ」とは異なるものです。そこにお金を出して自分がスポーツをするということに、一般の人たちはまだ馴染みがない。「スポーツをして自分たちが楽しむのだから、お金を出すのが当たり前」となるには、もう少し時間が必要でしょうね。しかしいずれは、月にいくらかのお金を払って地域の施設を使い、いいコーチングを受けてスポーツを楽しむという考えが定着してくるでしょう。
中垣内そういう考えが一般的にならなければ、クラブ運営はうまくいかないでしょうね。
平 尾それから、僕たちも総合型スポーツクラブを目指しているのですが、最初から「総合型」を意識しすぎるのはよくないような気もします。
中垣内と、おっしゃいますと?
平 尾みんな強みがあるわけですよね。たとえば、ブレイザースはバレーボールが強みだし、SCIXならばラグビーが強みです。まずは、そこにある豊富な人材やノウハウを軸にやっていけばいい。しかし、初めから総合型に取り組んで複数の競技に力を注ぐとなると、せっかく結集しているマンパワーを分散させなければならないし、施設も足りなくなる。そうなると、元々あった強みが薄れてしまうような気がするんです。それよりも、たとえばブレイザーズならばバレーボールを軸にしてクラブの充実を図れば、そこに大きな価値がでてくる。そうなれば「ブレイザーズでバレーをやりたい、中垣内さんに教えてもらいたい」といって、遠方から通って来る人もたくさんいるはずです。そういうスタンスから始めて、競技を増やすときには近隣のクラブとの提携も考えながら無理なく総合型に広げていくようにしたほうがうまくいくような気がしますね。
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