今、企業スポーツは大きな変革期を迎えている。長引く不況により企業がスポーツ部を抱えていることが大きな負担になり、スポーツを企業の広告塔や愛社精神の結束と高揚に利用することに以前ほどの効果が見いだせなくなっていることから、これからの企業スポーツのあり方が模索されている。そんななか、新日鉄では企業スポーツの新たな方向を目指し、野球部やラグビー部を始めとする7つのスポーツ部を、地域の住民や企業、自治体から支援を得て運営することを決定。これを受け、バレーボール部は昨年12月に法人化に踏み切り、株式会社ブレイザーズ・スポーツ・クラブ(愛称:堺ブレイザーズ)としてスタートし、地域に根ざしたクラブ運営に取り組んでいる。われわれSCIXはNPOという形態だが、目指すところはブレイザーズと同じ「地域密着型総合スポーツクラブ」の創設である。そこで、今回はブレイザーズのスーパーエースである中垣内祐一氏をお招きして、「地域密着型総合スポーツクラブ」の方向性などについて意見を交わした。

平 尾企業スポーツが行き詰まりを感じその方向性を模索していますが、そんななかで期待されるひとつの道が地域に密着した「クラブ化」への転身だと思っています。新日鉄のバレーボール部は「クラブ化」にいち早く転換を図りました。選手という立場でその改革に直面されてきた中垣内さんにはいろいろな意見をお聞きしたいと思っていますが、まずはクラブ化へのいきさつなどをお話しいただけますか。

中垣内実業団のバレーボールチームに関していうと、ここ10年ぐらいの間に休部や廃部になったチームが、男女合わせて20以上にものぼります。新日鉄としても、経営の厳しい時期が続いているにもかかわらず、スポーツ部を抱えていることに明確な意義が見いだせなくなってきて、従来の企業スポーツのあり方に限界を感じてきていた。ただ、神戸製鋼のラグビー部も同じだと思いますが、新日鉄堺のバレーボール部や新日鉄釜石のラグビー部というのは、単に一企業が持っているスポーツ部という枠を越えて社会的な財産になっています。だから、企業が苦しい状況にあるからと簡単に廃部すべきではないという意見が多く、存続させるための新しい方向を模索した結果、法人化に踏み切ったということが言えます。ただ、そういった後ろ向きな発想だけではなく、新しい企業スポーツのあり方を提示していこうという考えも会社側にはありました。

平 尾具体的には、ブレイザーズ・スポーツ・クラブという株式会社をつくり、選手の皆さんは新日鉄からの出向、もしくは契約社員としてブレイザーズに所属し、これまでのバレー部を会社として運営しているわけですね。

中垣内そうですね。昨年12月にスタートしてまだ10ヶ月ということもあり、現在のところ運営資金に関しては親会社の新日鉄に100%頼っています。しかし今後は、ブレイザーズとしての事業やサポーター会員からの年会費、スポンサー獲得などで資金を調達し、新日鉄からの出資額は半分から3分の1ぐらいに減らしていくことを目標にしています。

平 尾サポーター会員というのは、どういうものですか?

中垣内いわゆるファンクラブですね。「ブレイザーズサポーターズクラブ」といって、個人向けには年会費の違いによってフレンズ会員とソシオ会員の2種類があって、さらに法人会員があります。

平 尾たとえば、ブレイザーズの体育館でバレーボールができるというような、スポーツクラブ会員のような要素を含んだ会員なんですか?

中垣内現在はまだ、ブレイザーズのファンクラブといった要素だけですね。ただ、地域密着型のスポーツクラブを目指しているので、行く行くは野球場やテニスコート、サッカーやラグビーができるグラウンド、それから体育館などといった新日鉄堺の施設を利用してスポーツクラブにしていきたいとは思っています。

 

●プロフィール
中垣内祐一(なかがいち ゆういち):1967年11月2日、福井県福井市生まれ。194cm、90kg。中学からバレーボールを始め、高校では同好会に所属。筑波大学に入ってから本格的に取り組み、1989年、大学4年ときの春の関東大学リーグでの活躍が認められ、全日本入りを果たす。同年開催のワールドカップに出場し、以来全日本のエースに。大学卒業後、新日鉄堺に入社。Vリーグ(日本リーグ時代も含めて)では、最高殊勲選手賞3回、敢闘賞3回、猛打賞3回、ベスト6賞8回と、数々の個人賞を受賞。また、92年のバルセロナオリンピックでは6位に入賞、ワールドカップ('89、'91、'95)、世界選手権('90、'94、'98)など、全日本選手として90年代の男子バレーを牽引。現在は、新生堺ブレイザーズでコーチも兼任している。

 

 
 
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