平 尾今のスキーマの話は、非常によくわかりますね。われわれも成功体験をベースに、戦っていくわけです。つまり、スキームを作ってゲームに挑む。もちろんこれはラグビーだけでなく、スポーツ全般に当てはまることです。たとえば、東京オリンピックで女子のバレーボールが優勝しました。そのときの大松(博文)監督のスパルタは有名で、ふつうならば耐えられないような厳しい練習を、一日何時間もやったわけです。東京オリンピックの後、日本は数年間にわたって“バレー王国”と言われるようになったのですが、それは大松監督のやり方がスキームとなって築いたものではないかと思うんです。あの時代は、「巨人の星」とか「アタック宸P」などの、スポ根ものが流行していたという時代背景もあって、バレーボールで培ったスキームを、いろいろな競技に適用させようとした。ただ、時代が進むにつれて、スポーツの世界も情報化社会に突入し、以前のようにスキームそのものが長持ちしなくなってしまった。。
和 田おっしゃるとおりですね。
平 尾スポーツ全般を見ていると、昔は強かったのに今は弱くなってしまって、世界的な競争力を失っている競技もあります。逆に、勢いよく台頭してきたものもある。それは、新しく作ったスキームがすぐに陳腐化してしまう時代になって、それに対応できているかどうかということなのではないでしょうか。先生が先ほど言われたように、いつもの方法で勝てなくなったら、すぐにこれまでのスキームを崩して、時代や相手に適応する新しいスキームを作っていかなければなりません。僕が見ている限りでは、それができている競技とできていない競技とが二極分化してきている。時代遅れになったスキームにいまだにしがみついて、どうにかしようとしているようではダメなんですよね。
和 田そうですね(笑)。
平 尾最近の若い人たちは違うかもしれませんが、僕らの少し上の世代は、なかなか成功体験から抜け出せない人が多いように思います。つまり、伝統を継承したり習うことは得意だけれど、新しいことを作るのが苦手で、抵抗感もあるようです。ただ、それではこれからの時代は勝ち抜けない。たとえば、今は映像技術が発達しているから、試合を録画して実に細かく分析できるようになった。それによって、次に相手はどういう出方をしてくるのかが、すぐに予想できる。だから、同じ作戦を2回続けて使って成功するということが、非常に難しくなってきているんです。
和 田確かに、一つの成功体験を繰り返し使える時代ではなくなってきていますね。
平 尾そうすると、新しいものをどんどん作ったり、もしくはその場で瞬時に編集できる能力を個人個人が身につけたりしていかないと、勝ち抜いて行くことはできない。ところが、それに適応している人間の割合がまだまだ少ない。そういった能力をどれだけ身につけさせるか。それが今後の課題ではないでしょうか。
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