平 尾 景気が悪いと、エンビー型嫉妬が起こりやすくなるという話がありましたが、われわれを取り巻く環境によって、心理は大きく変わるということがよくわかりました。そうであるならば、なおさら心理と環境の関係をもっと認識しておく必要がありますね。
和 田 そうですね、それはとても大切なことだと思います。もう一つ、景気の悪いときに陥りやすい心理についてお話しさせていただくと、そうした状況になると人間は「自分は強い」と思いたくて虚勢を張る傾向があるんです。
平 尾 なるほど、から威張りですね。
和 田 そうなんですね。今の日本を見てもわかると思いますが、軍備を拡張しようとか、国連の安全保障理事会の常任理事国になろうとする動きがありますよね。バブル期のように景気が良くてお金も十分にある時期ならわかりますが、まだまだ景気は停滞していて国内のことにお金がいるこの時期にそういった話が出てくるのは、常識的に考えればおかしいことなんです。
平 尾 確かにそうですね。
和 田 これは、日本に限ったことではないんですね。世界の歴史に目を向けると、軍国主義が台頭してくるのは、その国の景気が悪い時期なんです。
平 尾 なるほど、そういう流れがあるんですか。
和 田 景気がいいときに軍備を拡張した国は、アメリカだけです。戦前、アメリカはモンロー主義(欧米両大陸の相互不干渉を宣言した米国の外交原則)を貫き、戦争をしませんでした。その間に、お金をキッチリ貯めて、十分な資金ができてから軍備を拡張した。だから、あんなに強くなったわけです。
平 尾 なるほど。
和 田 軍拡の善し悪しは別にして、日本が軍備の拡張をするなら、たとえば10年計画で景気を回復させて国が豊かになってから着手するという発想が必要なんだと思います。でも、そういう発想は出てこない。景気が悪いという環境が、微妙に心理に影響を与えているんです。やっぱり、人間は心理的な弱点をきちんと知っておくべきですね。 |