平 尾ところで、僕らの時代と今の子どもたちの間に、気質の違いを感じるようなことはある?

高 崎僕らのころは伏見がまだそれほど強くなくて、先のことを考えて入部してくるようなことはなかったでしょう。伏見に行って、大学は同志社だ、日体大だというような予想はまったくできなかった。僕は、山口先生のラグビーを見て「ここでやりたい」と思ったので、親の反対を押し切って伏見に行ったんだよね。当時は工業高校に進むと大学進学は難しい時代だったから、高校を出たら働くということを納得して自分で伏見を選んだ。でも、今は伏見に入ることが、次へのステップの手段になっているということが少なくない。そんなふうに位置づけが変わったこともあって、クールになってきているかな。僕らのころのように、最初から熱い気持ちを前に出すような生徒は少なくなったね。

平 尾でも、純粋さとかひたむきさというのが、失われているわけではないんだろう?

高 崎そうだね。そういう気持ちは誰もが持っている。ただ、放っておくと感情を面に出さない。だから、タイミングを見計らっていろんなアプローチをしながら、「感情を出すことは恥ずかしいことではなく、素直なことなんだ」と伝えていくんだけど、時間がかかる。そこに、労力の8割を費やしているかな。殻を外さないと、本当の指導ができないからね。

平 尾僕らが子どものころは、例えば三角ベースとかやって、その中でけんかをして泣いたり怒ったりしていたけれど、今の子どもはそういう機会が減っているからね。感情を素直に外に出すということが、なかなかできないんだろうね。

高 崎友だちの家で遊ぶといっても、皆黙ってTVゲームをやっていたりする。それでは、友だちと遊んでいることにはならないし、感情をあらわにするような場面もないしでね。そんなふうに今の子どもたちは感情表現をしないまま来てしまっているので、どこでどう出していいのか分からないし、感情を出すことにとまどいもあるだろうし。

平 尾しかし、部員数が多くていろんなタイプの生徒がいるから、大変だな。

高 崎何十人もいると、やんちゃな生徒とか特別な事情のある生徒のほうが関わりを多く持てるから、得てして早く殻を破ることができるんだよね。たとえば、入部してすぐにけんかをしたとか、たばこを吸ったとか、そういうことがあるとそれをきっかけにしてじっくりと話しができて、意外にコロッと変わってくれたりする。むしろ、普通にやっている生徒のほうが大変で、中には、1年、2年かかることもあるけれど、最終的にはみんな変わってくれるね。

平 尾感情を表現できる素直な自分が出てくると、プレーも変わるしね。

高 崎そうなんだよね。僕らの言うことを素直に受け止めてくれるし、努力することが恥ずかしいことではないとわかれば、前向きな姿勢も出てくる。そうすると、どんどんいい方に変わっていくからね。

<<つづく>>

 

 
 
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