佐 野これは一つの例として上げたいのですが、例えば日本の高校野球の連盟はグローバル化についてどういうことを考えているのか。グローバル化の流れを考えたら、そのために技術を上げなければいけないのに、プロ野球との関係をどう考えるのか、プロとアマの関係をどう整理していくのか、いろいろなことがきれいに整理されていないのです。中学生のレベルが優秀なら、中学生の全国大会をもっとたくさんやればいい。そうなると、日本では義務教育の年代だからという制限がかかるでしょう。だから、そういう制限がかからない考え方がいいかもしれない……など、いろいろな部分で、もっと高いレベルの人材を育てようという仕組みが国内になかなかできていないのです。

平 尾まさに、おっしゃる通りだと思いますね。

佐 野で、何を言いたいのかというと、我々の世界で言えば、ITが始り、物流が良くなっているにも関わらず……、また神戸のことを例に上げて恐縮ですが(苦笑)……神戸の港がなぜさびれるのか、設備はすごく良いのになぜさびれるのかと言えば、土・日に仕事をしないからです。世界では、香港であろうと、シンガポールであろうと、釜山であろうと、主要な港はどこも週7日間、24時間体制で動いています。そうすると船はいつ行ってもいい。行けば登録ができて、荷物を下ろせて、また新たな荷物を積んで戻ることができる。ところが日本の場合は金曜日の夜、決まった時間までに行かないと「はい、月曜日の朝に来てください」となる。そうすると、船員は2日間ただそこで寝ているだけです。言ってみれば、テニスコートはたくさんあるのに、いつでも練習できるのではなくて、「たくさんの子供たちが練習していますから、あなたは何時間か玉拾いしていなさい」と言っているようなものなんです。日本のスポーツが、やたらと「型」を教えてきた理由の一つには、今言ったような理由で、そのスポーツを止めさせたいからやってきたようなところもあるのではないですか?

平 尾確かにそれはありますね。

佐 野わざと興味を失わすために、やってきたようなところがあるでしょう? そういうところが、結果的に今も日本にはあるのです。産業の空洞化ということでいえば、単にコストが高いだけの問題ではなく、日本でしかやれない人たち、日本にしかいない人たちが、グローバル化ということを考えないのです。国際競争力ということを考えないのです。彼らにとっては、外国に負けているということはどうでもいいことなのです。国際的に負けていることは大したことではないのです。日本でしかやらないのですから。

 

平 尾それはスポーツでもありますね。結局は、それが競争力を高めようとすることを阻害する壁になっている。それぞれに目的というものはあるのでしょうが。それはすごく感じますね……。今、たまたま小泉首相が「構造改革」ということをおっしゃっていますね。実はスポーツも本当に構造改革をしなければいけない時期に今、来ていると僕は思っています。例えば今、ラグビー界も国際競争力を高めるために、一部をプロ化しようという動きがあります。それは特効薬として一時的な景気回復はあるでしょうが、それで国際競争力が養われるかというと、あまり長続きしないような気がします。もっと根本的な構造改革をしないと。なぜなら、構造が変わらないと確固たる基盤ができないから、上積みというか、物事が上に乗っていかないんです。とりあえず今はいいけれども、「また潰してイチから」という世界です。そうした方法が必要な時期もあるでしょうが、物事を蓄積させることを考えたら、そのこと方がはるかに重要です。ところが今の基盤では物事が上に乗っていかない。だから、それを取っ払ってより強固な基盤を作り、そこに載せて行こうという作業を今やらなければいけない。それと同時に、今の言葉で言えば「規制緩和」も必要です。先ほども出たアマとプロの関係は規制緩和です。こういう規制緩和が戦略的に日本はできていない。国際競技力や競争力を上げていくのに、個々の競技者のスキルや体力を上げていくだけではとても追いつきません。

佐 野確かにおっしゃる通りですね。

<<つづく>>

 
 
Copyright(C)2000 SCIX. All rights reserved.