平尾松岡正剛さんは、サントリーのローカル・パティキュラリティ型のラグビーをほめていたわけですが、この方法を遂行するためには、「徹底したフィットネスとエクササイズが必要だ」「また、作戦を突然に変更する瞬時の勇気もいる」と書かれていました。松岡さんはラグビーの専門家でもないのに、実によく見ていらっしゃる。まさにその通りだと思って、ラグビー部のミーティングのときに読み上げたんです。続いて僕が話したのが、エクササイズのあり方なんです。エクササイズの効果を上げるためには、目的とプランと行動が必要とされているわけですが、個人でエクササイズするときにはこの3つがあればいい。でも、集団の場合は目標とプランの間にコンセンサスが入ってくるんで。
佐渡いくら目標とプランがあっても、コンセンサスが取れていなかったらエクササイズの精度が上がってこないと。
平尾はい、それが僕の持論です。僕がミーティングの時に選手たちに言いたかったのは、我々はサントリーに対して1勝1分けで勝ち越した。なぜなら、僕らのほうがエクササイズの質が高かったからなんだということなんです。
佐渡目的意識を持ち、十分なコンセンサスを取って緻密なプランを立て、それを実行した。その制度が、神戸製鋼のほうが高かったということですね。
平尾そうなんです。この4つのうち、一つでも質が落ちたら、一気にエクササイズの質は落ちる。そうなれば、ゲームでのパフォーマンスもものすごく悪くなるんです。
佐渡エクササイズの話が出ましたが、エクササイズはやっぱりつらいですよね。肉体的にはもちろん、時には精神的にも。
平尾そうですね。
佐渡そこで、お聞きしたいんですが、平尾さんがジャパンの代表監督に就任されたときに2003年のワールドカップに向かってチームをどうするのかというビジョンをハッキリと打ち出したのは、選手もビジョンを持つことでつらいことや苦しいことを乗り越えていくためのエネルギーにして欲しかったという意味合いもあるわけですか?
平尾それは、ありましたね。ビジョンというのは「こういうふうになりたいな」という目標です。いわゆるスポコン・マンガなどでは、頑張ること自体が目的になっていて、はそれを美化しすぎるところがあります。でも本来人間は、「こうなるためにこれが必要だ」とわかれば、頑張れるものなんです。ラグビーでも「あいつすごいな、あんなタックルをして」という場面があります。それは、そこでタックルをしたら敵の攻撃を止めることができてゲームに勝つという目的が達成されるはずだ、そのためにはタックルが必要だと思うからできるんですよ。ところが、人によっては「根性がある」という一言でかたづけてしまう。根性が出てくるのは、自分の中で目的が明確になったときなんです。
佐渡確かに目的もないのに、「根性を出せ」と言われても難しい(笑)。
平尾そう、根性を出したところで実りがないというか、根性の無駄遣いという気がしますね。せっかく根性を出すのならば、最大限の効果を生むような出し方をすべきだろうと思います。
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