平尾いいコンサートマスターというのは、どういう人なんですか?
佐渡オーケストラは100人ぐらいの集団なんですね。音を作っていく上ではどうしてもイメージ的な話になってくるので、個人に話をするときは比較的伝わりやすいけれど、100人の集団に対して話をすると不足する部分も出てくる。それを補ってくれるようなコンサートマスターはやりやすいですね。
平尾佐渡さんのイメージをよりわかりやすく表現してくれる人ですね。
佐渡そうですね。僕は指揮者というのは、オーケストラの全員の筋肉が反応するようなイメージを与える必要があると思っています。たとえば「梅干し」といったらジワッとツバが出てくるような。そういう頭で理解するのではなく、体が反応するようなイメージを伝えてることが大切なんです。だから「ここはレモンをナイフでスパッと切ったような音を出してくれ。今のじゃ乾いてしまっている」というようなイメージを伝えて、さらに管楽器ならば「息を早く吹き込んでくれ」とか、「意気をためないで一気に出してくれ」とか技術的なことも言ったりしながらジューシーな音を引き出すようにしています。
平尾今のはすごくわかりやすい表現ですね。
佐渡それでも、もっと専門的な表現が必要なこともあるんですよ。そういうときには、やはりコンサートマスターの力を借りることもありますね。とくにオーケストラの6割を占める弦楽器のイメージを統一させるためには、コンサートマスターの力が大きくものをいいますから。
平尾なるほど。
佐渡たとえば「もっと、ふかふかの豚まんみたいな音を出してよ」と僕が言った場合、コンサートマスターが「もっと弓を使おう」とか「みんなで息をしよう」といった技術的な言葉に置き換えてくれたり、言葉にしなくても実際に弾いて見せてくれたりすると、音はだいぶ変わってきます。僕が作りたいと思っている音の方向性をきちんと示してくれるのが、コンサートマスターの役割なんです。
平尾さしずめ、指揮者は全体の図面を引く設計士で、コンサートマスターはそれを具現化する大工の棟梁みたいなもんですね。
佐渡そうですね。
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