平尾僕はクラシックのことはまったくわからないんですが、佐渡さんの「オーケストラの鼓動」というビデオを頂いて見たら、すごく興味深かった。そのことは『日本型思考法ではもう勝てない』(ダイヤモンド社刊)という対談本の中でも触れているのですが、わずか2日〜3日でオーケストラを作り上げていくその過程を追いかけていて、そのときのオーケストラの導き方とか、自分の作りたい音がどういうものかを伝えるための表現とかが、非常におもしろかった。とくに、コンサートマスターを始めとする、オーケストラとのコミュニケーションの仕方がとてもうまいなと感じました。
佐渡音楽監督という立場で、10年計画でそのオーケストラを作っていくのだったら、もうちょっと違う方向になると思います。でも現在の僕は、30団体ぐらいですが、世界各国のオーケストラをある程度、定期的に指揮しなければならない。つまり、すでに存在しているオーケストラのところへ行って、3日間ぐらいトレーニングをして本番を迎えるという仕事がほとんどなんです。
平尾なかなか割のいい仕事ですね(笑)。
佐渡アハハハ、確かに(笑)。でも、僕には何の選択権はないです。一般の楽団員はもちろん、コンサートマスターでも僕が選ぶということはできない。たまたま僕が指揮に行ったときに、お気に入りのコンサートマスターは舞台に上がらない日で、別のコンサートマスターだったということもしょっちゅうありますから。
平尾コンサートマスターは、オーケストラをうまくまとめていく上でとても重要なポジションですよね。指揮者とコンサートマスターがどういう関係をとれるかということで、仕上がりも違ってくるわけでしょう?
佐渡そうですね。コンサートマスターとは侍同士がパッと出会ったようなもので、お互いにさぐり合いをしながら、相手を見抜こうとしたりするんです。
平尾「たいしたことないな」と思ったりすることも?
佐渡たまにはありますよ。「こいつ、偉そうにしているけれど、見栄張っているだけだな」とか(笑)。そうすると、予想通りに演奏がまとまらなくなってしまいますね。3日間で本番を迎えるわけだから、うまくいくときもあれば、うまくいかないときもあります。
平尾そうでしょうね。たとえば、若い頃にコンサートマスターになめられたなんてこともありましたか?
「日本から来た若造が…」といったように。
佐渡いや、ヨーロッパではなかったですね。あ、でも、そういえば一人おったな、そういうヤツが(笑)。
平尾ハハハ。そういうときはどうするの?
佐渡でも、そういうのはよくないことですから、オーケストラのほかの人たちはわかっていますよ。だから、どうってことないです。むしろ、そういう話は日本でよく聞きますね。僕はほとんどなかったけど、もうちょっと協力してくれたらすごくいい音楽が作れるのになと感じるようなことは、何度かありましたね。
平尾何となくわかりますね、そういうのは(笑)。
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