佐渡今の話を聞いていて思い出したんですが、この前、フランスにサッカーの日本代表チームが来てフランス代表と試合をしたんです。それを見に行ったんですが、フランス代表のジダンという選手は、本当にすごいですね。まさに、今、お話しされたように彼がパスをするとチームの全体の状況がよくなるんです。

平尾たしか、0−5で日本が大敗したゲームですね。

佐渡そう、その試合ですよ。あのときは、ジダンがボールを持つと、それだけで点が入るような気がしました。実際、センターラインあたりでボールを持って「ああ、やめてくれ!」って思っていたら、本当に点が入ってしまった(笑)。ものすごいスピードと、意外な展開でジャングルを切り開いて行くというような感じでしたね。ボールがどこに出るかわからないのに、チームメイトはちゃんとそこにいる。右にパスすればそこにいるし、左に出せば左にもいる。上に放ってもそこに誰かがいる(笑)。

平尾すごいな、それは(笑)。ラグビーだけでなくサッカーやほかのスポーツにも言えることかもしれないんですが、スポーツの指導を行うときに日本では、まず「基本」というものが大事にされますね。でも、それはあるレベルまでのことであって、それ以上のレベルになると基本ではないような気が、僕はしますね。たとえば、キャッチボールだと「見る方向に放れ」とか、キックならば「軸足を蹴る方向に向けろ」と教える。それで方向性を出すのが基本なんだというわけです。でも、世界レベルのゲームでは、そんなプレーをしても通用しないでしょう。軸足の方向とは逆に蹴らなければ、誰にパスを出すのか相手にばれてしまう。

佐渡たしかに、基本を忠実に守っていたらあるレベルを超えられないですね。

平尾つまり、「基本」というのは「本質」とはまた別のことなんですよね。でも、日本では本質も基本に一緒にくくられてしまっている。だから、基本から抜け出ることが難しくなってしまっているんです。さっき話に出たジダンのプレーは、本質はとらえているけれども、基本からは抜け出したプレーですよね。その辺が、味方のプレーヤーにもよくわかっているから、どこにパスが出るか瞬時に判断ができる。スポーツにおいて、基本を超えた考え方、基本を超越したプレーというのは、実は日本がもっとも遅れている部分ではないかな、という気がします。

<<つづく>>

 
 
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