平尾みんながゲームを楽しむという観点でいうと、本来、そういうシステムが理想なんだけどね。ところが、日本の場合は目的よりも手段や方法に重点が置かれているから、ゲームを楽しむということよりも勝つことだとか、レギュラーになることだとかが重要視されてしまっている。その結果、選手なのにゲームにも出られない「補欠」というものが作られてしまった。今、大畑の言ったリザーブの問題はまさにその点で、本来の目的を考えれば、全員がゲームに出られる環境というのは当たり前のことなんだけどね。
大畑それについて、こっちへ来て思ったことがあるんです。日本の場合、たとえ社会人でもレギュラー以外の選手が出られる試合というのは限られているじゃないですか。それこそ年に1試合とか2試合とか……。それでもゲームに出られればいいほうで、まったく出れない選手もたくさんいますよね。そういう選手たちが、もっとこっちに来れるようなシステムが作れないかな、と。
平尾こっちに……?
大畑はい、みんながみんなというわけじゃないんですけど、僕のように会社の留学制度を使って海外に来られる選手というのは、日本でもほとんどがレギュラーの選手じゃないですか。そうではなくて、もっと試合に出られないような選手をこっちに来れるように日本で出来ないかな、と。
平尾ほう……、それは面白いアイデアじゃないか。
大畑今、ノースではけが人の関係で18歳の選手とかも試合に出てるんですよ。日本で言えば、平尾さんとかが最年少で(代表)キャップを取った年代の子たちなんですけど、日本の中ではそういう子というのは、ほとんどいませんよね、大学に入っていきなり代表とか社会人のレベルで試合できる子なんていうのは。ところがこっちでは、そういう年代の子たちが普段から大人と混じって何試合もやっているんですよ。だからトップレベルの試合でも出られるんですけど、そういう環境を作ってあげるという意味でも、こっちに連れて来て試合を経験させるほうがいいんじゃないかと。
平尾そうなると、日本でもクラブ化云々という話になるんだけど、そういう環境で幅広くゲームが出来るということは、実はとても大事なことなんだよ。大畑も分かっているように、ラグビーというのはどんなにハードな練習を積んだかにといって、必ずしもそれが力になるとは限らない。それよりもゲームに出ていろんなことを経験するほうが、はるかに力がつくという面がある。たとえばゲーム中の緊迫感だとか、気持ちが高揚して熱くなることだとか……。その熱さも、実はそれだけでは試合に勝つことは出来なくて、その中にも冷静さだとか、ちょっとした計算だとかも必要だかということは、どんなに口で説明されても分からない。実際にゲームに出て、ものすごく緊迫した状況にならないと経験出来ないということが、ラグビーの中ではものすごくたくんさあるからね。
大畑確かにそうですね。
平尾ところが日本では、高校は高校、大学は大学、社会人は社会人という括りの中でラグビーが行われているから、その中で勝ってチームの面子を保つことのほうが大事で、ゲームに出られない選手のことはどうでもいいという世界になっている。これでは全員がゲームに出らるような環境なんて、出来るはずもないんだよ。
大畑それは僕もずっと思ってました。こっちでは結果ももちろん大事にしてますけど、それよりもどういう形でみんながゲームを楽しめるかということを第一に考えて、しかもそういう環境が出来上がってますからね。
平尾だから代表クラスでも、どんどんいい選手が出てくるんだよ。たとえば、こういうことがあるだろう。高校とかその上のクラスでは2edグレードだった選手が、その後急激に伸びてワラビーズ(オーストラリア代表)に入ったとか、あるいはポジションの関係で、それまでは普通のプレーしか出来なかった選手が、ポジションが換わった途端ものすごく良くなっただとか。そういう選手が出てくるためには、やっぱり常にゲームを経験していることが大事だし、ゲームをしていなかったらそうしたチャンスさえ生まれないないからね。だから、どんなレベルの選手でも、何らかの形でゲームが出来るという環境が必要だし、そのための環境整備というのがこれからの日本では絶対に必要なことだと思う。たぶん、それはラグビーだけじゃなくて、野球とかサッカーとかでも言えることだと思うよ。
大畑それが日本の中ではなかなか出来ないんで、だったら外に出てというのもあると思うんですよ。僕の場合はこっちへ来るのがちょっと遅かったので、シーズンの頭からは出られなかったんですけど、それでもゲーム数で言ったらかなり出ていますからね。そういう意味でも、試合に出られない選手をもっと海外のクラブに送り出すことを考えてみてもいいと思うんですよ。
<<つづく>>
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