平 尾その国際的なネットワークは、どのように構築されたのですか。
河 野まず、認識しなければいけないのは、ドーピング問題はスポーツ界だけの問題ではなく、各国政府が非常に積極的に取り組んでいる大きな問題であるということです。とくにヨーロッパの国々には「スポーツ省」という行政機関があり、そこがスポーツのすべてを管轄しているというケースがほとんどです。ですから、スポーツ界と行政機関がバランスをとりながら、ドーピングに対する体制も作り上げることが可能になった。その一つの成果が、アテネだったということが言えると思います。
平 尾日本の場合、スポーツを管轄するのは文部科学省や厚生労働省で、ヨーロッパ諸国のように統一されていません。しかも、よく言われる「縦割り行政」の弊害もあります。
河 野日本とヨーロッパの国々では、スポーツの置かれている位置づけが、明らかに違いますね。ヨーロッパではスポーツの位置づけが明確になっている。ドーピング問題に関して言えば、社会への悪影響というものが重視されており、その対策として積極的に取り組んでいる。僕はそうしたあり方のほうが、本筋だと思っています。それに対して、日本やアメリカは、スポーツ界そのものが民間主導で成り立っていますから、先進国といわれる国のなかでは、少し事情が異なります。
ヨーロッパでは、たとえばフランスでは、ナショナルチームの選手はみんなパブリックなファウンディング(国からの資金提供)を受けています。選手だけでなく、ナショナルチームのコーチなども日本で言うところの「準公務員」という立場で、そういう人が8万人ぐらいいるそうです。
平 尾生活の保証を受けて、スポーツに関わっているわけですね。
河 野そうなんです。国が直接、支援しているわけです。ですから、アンチ・ドーピングに対しても、ヨーロッパの国々は完全に政府主導です。スポーツが民間主体で行われているアメリカでさえ、アンチ・ドーピングにかける予算の7割ぐらいを国から提供を受けてますが、日本は5%ぐらいですね。
平 尾そんなもんなんですか、日本は?
河 野ですから日本は、どうしても陽性者がでたというような表面的な結果に焦点があたる。外国の場合は、アンチ・ドーピングに税金が使われていますから、お金を出している納税者たち、つまり国民は、政策決定されたものがきちんと遂行されているかというところまで見ている。そのために、ドーピング問題に関して、日本とは見方がかなり異なるわけです。
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