今 田なるほど。本質を理解しなければ“変える”ことができないというお話は、私のいう自己組織化にも通じるところがありますね。外圧によってではなく、自らの意志で自分を変えるには、まず自分を理解することが必要です。つまり、自分がしてきたことや考えていたこと、そして起こった事柄と自分との関わりといったことを考えなければならない。私はそれを「レフレクション」と表現しています。しばしば「反省」と訳されますが、むしろ「自省」というほうが適切ですね。

平 尾自分の失敗を見直すというよりも、言動や思考などをじっくりと検討するといったニュアンスですね。

今 田そうですね。もともと、人間はレフレクション能力を持っていたからこそ、高度な文化を築くことができたんです。たとえば、道具を使うサルやチンパンジー、コミュニケーションを図っているというイルカなどは頭が良い動物として知られていますが、レフレクション能力は備えていません。たとえば、イルカが仲間に「あそこに行けば、エサがあるぞ」と教える。教えられた通り行ってみたけれどエサがなかった場合、「お前が言うとおり行ったけど、エサなんてなかったぞ。どうしてくれるんだ」と、文句は言わない(笑)。つまり、自分がとった行動について、もう一度考え直すということができないんです。

平 尾人間が本来的に持ち得た能力ということですが、でも今は…。

今 田じゅうぶんには使われていない。近代化が進むにつれて、集団で成果を上げるということが求められるようになってきた。そのため、レフレクションする能力を持っているにもかかわらず、それを使うことができない状況に押さえ込まれてしまっているんです。今こそ、レフレクションする能力を開花させて、自己変革をしっかりできるような力を発揮させることが必要なんだと思います。

平 尾そうですね。まさに、僕もそう思います。文明はどんどん発展し、高度な社会生活を営むようになって、我々が本来持っていた潜在的な能力を発揮しなくても生活できるような状況があるのは確かです。そのため必要とされない能力は退化しつつある。レフレクション能力だけでなく、もっと「人間力」的な能力を使えるように社会環境を整備していかないと、人間そのものがある意味で下等なものに成り下がってしまうような気がしますね。

今 田確かにその可能性はあると思います。

平 尾ものすごく進化を遂げている生き物だけど、さらに発展していくためにはそういった潜在能力を活用する場がないとダメですね。

今 田おっしゃるとおりですね。

 

 
 
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