平 尾先ほど話に出た「人を育てる」ということに関して僕が感じるのは、日本では何ごとも早く覚えさせるが大切だという風潮がありますが、何かをマスターするのにはそれにふさわしい時期があるということなんです。「この技術はこの時期に習得すればいいから、それまではあまり知らなくてもいい」ということが多々ある。ラグビーやサッカーでいうなら戦略論なんていちばん最後でいい。それよりも、まずはボールに親しむことです。サッカーの場合、ルール上では11人対11人になっていますが、5対5や15対15でやってもいい。そういう状況の中で、それに応じたゲームを作れるような能力を育成させてあげる方がいいわけです。何でもルールに則って決まったようにやらせることが、いいとは限りません。
今 田おっしゃるとおりですね。教育の場においても、ルールや基本、常識といったことに縛られすぎる傾向がありますね。
平 尾コーチングの中で僕がよく言うのは、「怒ることよりも、ほめろ」「覚えさせるよりも、考えさせろ」という2点です。考えさせろというのは、ある場面で「こうするんだ」と最初から教えてしまうのではなく、「そういう場合では、どうしたらいいと思うか」と問いかけて、答えを模索させることが大切だということ。答えが出てくるまで時間がかかるかもしれないけれど、「1+1=2」と暗記させられてオートマティカルに「2」という答えを出すのと、算数的に「1に1を加えると2になるんだ」というのがわかっているのとでは、だいぶ違う。というのも、なぜそうなるのかという中身をきちんと理解できていれば、変化が起こせるんです。たとえば、大リーグで活躍しているイチロー選手がそうです。彼は「打つ」という行為がどういうものかを、とてもよく理解しているのではないでしょうか。バッティングフォームは必ずしも野球の教則本通りではないけれど、「打つ」ということの本質がわかっているから、自分流にいかようにでも変えることができる。逆に言えば、本質がわからなければ、基本の打ち方ありきで考えるしかないわけです。だから「スタンスはこうで、グリップはこう」というように、スタイルにとらわれてしまう。自分の肉体にいちばん適しているフォームかどうかもわからないまま、その枠に括られてしまうのではないでしょうか。本質を理解するということは、ちゅうちょなく“変える”ことができることだと思いますね。
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