平 尾ただ、ここで問題だと思うのが、スポーツを始めるときのことなんです。今は、小学校でスポーツに出会うということが多いですよね。僕も小学生の時に体育でサッカーやポートボールをやって、それがスポーツへの入り口になった。そこでおもしろいと思えれば、本格的にやろうという気になる。だから、導入の部分でもっといい教え方ができればいいと思っています。もちろん、教え方のうまい先生もいるんでしょうが、小学校の体育では「キツイばかりで嫌だ」とか、「できなと肩身の狭い思いをする」ということが多々あるのも現状です。そういったことをなくしていかないとだめだろうと思っています。
原 田そう、それはすごく重要なことです。スポーツに対する意識や意欲が、そこで変わってくる。
平 尾それは、スポーツクラブについても同じなんです。地域に密着したスポーツクラブを作るという考え方はものすごくいいけれど、実施段階でどう教えるかということがしっかりとできてないと。ここでスポーツのおもしろさを実感させて欲しいと思いますね。
原 田イギリスの「スポーツ振興モデル」は、その辺が非常にしっかりできている。底辺に「ファンデーション(Foundation)」という基盤があって、そこでは小学生を対象にスポーツの楽しさを教え、スポーツの習慣を身につけさせるための基本的なプログラムがある。その上にはレクリエーション目的の活動プログラムである「パーティスペイション(Participation)」と、より高い技術の獲得を目的とした「パフォーマンス(Performance)」。そして頂上に、トップレベルの競技力の向上を目指す「エクセレンス(Excellence)」があります。ですから、レクリエーション的にスポーツを楽しむ人も、一流選手を目指していく人も、まず「ファンデーション」から始まって、そこから分かれていきます。
平 尾なるほど、イギリスではスポーツに参加しやすいようなステップがあるわけですね。
原 田そうなんです。だから、平尾さんの言われるように、イギリスの「ファンデーション」に当たる部分の小学校教育には、もっと工夫が必要なんです。もっと楽しいスポーツとの関わり方が絶対にある。たとえば、アメリカンフットボールの「オービック・シーガルス」というチームでは、選手が都内の小学校に行って「フラッグ・フットボール」を教えたりしている。タックルなどを排除して女の子でも楽しめるようにしたゲームで、昔でいう陣取り合戦ですね。それが今、ものすごく普及して、フラッグ・フットの人口がワーッと増えてきたんです。ラグビーでも、やっていますよね?
平 尾はい。タグ・ラグビーですね。
原 田そういうものを普及していくことは、とても大切なことなんです。体育ではなくて、遊びのフィジカル・アクティビティが。Jリーグでも子どもたちにアプローチしています。そういったことを考えると、体育の先生ができないところを地域のスポーツクラブが補っているのかもしれません。だから、絶望することはないと思うんですよ。
平 尾そうですね。子どもたちは、そういうところで体を動かす本当の喜びを覚えていってもらいたいですね。
<<つづく>>
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