これまで、学校や企業単位で行われてきたスポーツが、大きく変わろうとしている。余暇時間の増大や健康への関心の高まりなど、人々がさまざまな形でスポーツとの関わり求め始め、行政も「総合型地域スポーツクラブ」の育成に取り組み始めている。だが、その一方では、スポーツが地域文化として必ずしもスムーズに根付いていかない現実を指摘する声も多い。スポーツを地域の“文化”として根付かせるためには、今、何が必要なのだろうか。スポーツ振興の現場をフィールドワークにしている大阪体育大学教授・原田宗彦氏と語り合った。

平 尾現在、行政主導で地域に密着した総合スポーツクラブを育成しようという動きが各地であり、兵庫県でも行われています。スポーツ文化・スポーツ経営の専門家でいらっしゃる原田先生は、現状をどのようにご覧になっていますか?

原 田兵庫県では法人県民税超過課税を投入して、全小学校区に総合型地域スポーツクラブを設立しようとしていますね。私の研究室では神戸市の小学校区を調査させていただいたのですが、うまくいっているのはもともと地域スポーツに対して関心が高かったところで、多くは戸惑っているようでしたね。まだ焼く準備のできていない冷えた鉄板の上にいきなり肉を乗せられて、それをどう料理をしたらいいのかわからない状態とでも表現するような現実がありました。

平 尾確かに、自分たちの地域にどんなスポーツクラブを設立したいのか明確なビジョンがない状態では、たしかに補助金も有効には使えないでしょうね。

原 田しかも、補助金は3年間支給されますが、その後は自分たちで運営をしていかなければならないわけです。そのときにうまくクラブをマネージメントしていけるような、ノンプロフィットのビジネスモデルを作っておかないと。補助金だけでは十分とは言えないでしょうね。

平 尾そうですね。ところで、スポーツクラブに対する需要というのはどうですか?

原 田日本人はスポーツが好きな国民なんですよ(笑)。商業フィットネスクラブは、全国に1,800ぐらいあって、3000億円の市場がある。

平 尾かなり大きな市場ですね。

原 田ニーズはあるわけです。ところが、行政はそこをうまくとらえられていない。補助金を出せば何とかなると考える。しかし、行う人が主体になるスポーツだけは何とかならない。スポーツをする人のモチベーションを同時に高めていかないとだめなんです。そのためには装置が必要なる。たとえば、このクラブに所属したら、シャワールームが完備され、個人用のロッカーもあるとか、素晴らしい指導者がいるとか、そこでスポーツをやることによって「自分のクラブ」という意識が出てくるようにすることが大切なんです。それを、3年間は補助金が出るからと、取り合えず指導者を呼んできて無料でスポーツを教えようとする。それも、更衣室も十分に完備されていない公民館などでやるから、3年後に補助金が切れ、各自が資料料を負担しなければならなくなると、「それならもっと設備の整っている商業スポーツクラブに行く」ということになる。つまり、スポーツを行う人は消費者であると。行政にはそういう視点があまりないというのが現実ですね。

平 尾そうですね。行政は、目の付け所も悪くないし、超過課税をうまく活用するのもすごくいいと思うんですが、確かにその方法はいまひとつという感じもしますね。

 

●プロフィール
●原田宗彦(はらだ むねひこ):大阪体育大学教授
1954年、大阪府生まれ。1977年に京都教育大学特修体育学科卒業後、84年ペンシルバニア州立大学体育・健康・レクリエーション学部博士課程修了(PhD)。鹿屋体育大学助手、大阪体育大学講師を経て95年より現職に。現在、日本オリンピック委員会ゴールドプラン委員、スポーツ振興基金審査委員、Jリーグ経営諮問委員会委員なども務める。著書に『スポーツイベントの経済学』(平凡社新書)、『スポーツ産業論入門第三版』(杏林書院)など。

 

 
 
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