平 尾僕らの時代のリクルーティングというのは、生活や将来のことなど考えないでいいというものでしたよね。

青 島そうそう。「野球さえしっかりやってくれれば、あとは会社がめんどう見るから」という、ありがたい時代だった。でもこれからは、そんなふうに会社任せにしていてはダメですね。

平 尾そう考えると、今までは一元的だったスポーツ選手の雇用が、これからは多様化するでしょうね。例えば同じ企業が選手と契約する場合でも、スポーツにものすごく秀でた選手なら「プロとして契約しよう」ということになるだろうし、プロでは無理だけどビジネスマンとしても育っていきそうなら仕事もさせて、選手生命が終わってからは会社の戦力として受け入れたり。あるいは、仕事をメインにして空いている時間にラグビーをやるという条件だったり。つまり、それぞれの選手に存在価値がなければ生き抜けないということです。会社にとってラグビーだけで存在している選手もいれば、ラグビーと仕事と半々の存在価値を示す選手もいる。それをこれからは個人が判断するようになってくる。

青 島スポーツ選手は自分の好きなことをして生きていくわけだから、自分の将来に対するビジョンをしっかりと持って、きちんとしたライフプランを立てられないとダメなんです。これからは、そういう生活力のある人間がスポーツをやっていける時代になりますね。これまでは、選手だけでなくその周りの人たちや、競技団体もそういうことに対してあまりにも無責任だったように思います。

平 尾そうですね。人生の中には、セカンドステージとかサードステージというのがあります。そこにうまく上がるために、今の自分にとってラグビーは何なのかということをしっかりと考えていかなければいけないんですよね。つまり、セカンドステージに上がるためのキャリアをどう積んでいくのかということを。セカンドステージがプロになることならばそのためのストーリーがあるし、ビジネスマンになることならまた別のストーリーがある。それをきちんと自分で描いていけるようにならないと。これまでのような、高校でラグビーをやって、ラグビーの強い大学に行って、社会人チームに入るというというワンパターンな道を誰もが歩むことはできないわけですから。

青 島そう、本当にワンパターンでしたが、これからは個人差が出てくるでしょうね。

平 尾自分の道をしっかり描いて、何をすべきかを考えられる人が、これからの時代に成功する人なんだと思います。

青 島そうですね。結果的にですけれど、今話したような動きはいくつか出てきていますね。例えば、これまでプロ野球に入ってくるのは、学生か社会人だった。でも、ここ何年かはクラブ出身の選手が入団するようになってきたんです。例えば「大分野球倶楽部」というように企業名がまったくつかないところです。これは、所属していた社会人チームが解散になってしまい、そこにいた選手の有志がクラブを作ってそこからドラフトされているわけです。現段階では、企業がやめてしまったから、仕方なく自分たちで続けているというクラブからプロに行くわけで、プロの側もそのあたりの事情も汲んでいるケースもある。でも、とりあえず多様な人たちが集まるクラブという形態ができて、そこからステップアップしてプロに引き抜かれていくという形ができつつあるのは理想的なことだと思います。

平 尾確かに「仕方がない」というところからの出発だけど、形としてはこれからの時代に適したものですね。

青 島こういうことを考えると、アメリカの野球界のシステムはよくできていると思います。アメリカでは、ルーキーリーグや1Aリーグは週給300ドルとか500ドルというレベルです。そんな低賃金では選手たちはレストランで食事をすることもできず、ハンバーガーを食べながら移動している。そのため「ハンバーガーリーグ」とも呼ばれているんです。ハンバーガーリーグは、夏の間とかシーズン終了後などの1、2ヶ月程度の短期間の契約で、そこでいいパフォーマンスを見せると、上のステージに引っ張ってもらえる。それで、最終的にはメジャーリーグまでつながっているんです。もちろん、一番下のリーグの選手はそれだけでは食べられないから、野球がないときには他の仕事をしながら生計を立てている。形はどうであれ、アメリカの野球界のように底辺から頂上までがつながるようになっていくことが理想ですね。

平 尾そうですね。

 

 
 
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