SCIXコーチインタビュー【第三弾】YUKIO MOTOKI
ラグビーは周りの選手がいて初めて自分も活きるスポーツ

──元木さんは中学の部活でラグビーを始めて以来25年間、プレーヤーとして活躍されてきたわけですが、それだけ自分を魅了したラグビーの魅力とは何だと思われますか。またSCIXでは、ラグビーのどんなところを子供たちに伝えてやりたいと思っていますか。

motoki元木:僕も年代によってラグビーの価値観というか、考え方は変わってきているんですが、まず一つの良さは横のつながりだと思います。ラグビーというのは、周りにボールをつないでくれる仲間がいて初めて自分も活きるスポーツですから、自分が周りのプレーヤーに信用されないといいプレーができない。周りがあって自分がある。そういう感謝の気持ち他者への思いやりは、今の時代は希薄になっているところだと思いますので、そうしたところを子供たちには伝えていきたいと思っています。あとは判断力ですね。ラグビーというのは、ゲームの形は大枠で決まっていますが、ボールを持ったプレーヤーがどう判断するかによって次の場面が決まってきます。パスをするのか、キックをするのか、相手に当たっていくのか、一つとして同じ場面はありませんから、場面場面によってボールを持ったプレーヤーが自分で判断をしなければならない。周りのプレーヤーたちもその判断したプレーに対して、何が有効かを自分で判断してついて行く。そうした判断力の連続がラグビーの面白さですから、そこを磨くことによってどんどん高いレベルのプレーができるようになるということを教えてやりたいですね。

──元木さんは19歳で日本代表入りした当時から“突貫小僧”といわれるほどコンタクトの強さが際立っていました。その後、数多くの代表経験を経てパスも上手いオールラウンドのBKプレーヤーとして評価されるようになりましたが、今お話を聞くと実は元木さんが魅了されてきたラグビーの面白さというのは、後半の判断力が問われるゲームとしての面白さだったと?

元木:いや、コンタクトプレーも醍醐味の一つなんです。実際にラグビーは格闘技でもあるわけですから、そこの強さも必要です。だからトータルで考えたらいいと思います。僕の場合は、強くもあるし、判断力もある、パスも上手いというように全ての面が良くないと自分で納得がいかない。どれか一つというのは嫌だったので、それをずっと求めてやってきたんです。若いころは、確かに強さだけということもありましたが、世界を知って、いろいろな選手のプレーを見て、こういうプレーも自分に欲しいとか、メンタルももっと強くなりたいとか、そういうことを積み重ねて自分を成長させてきたんです。もちろん完璧なんていう言葉には程遠いかもしれませんが、それでも少しづつではあるけれども自分を成長させることはできたと思っています。

選手の指導は面白い。わずか一か月でも顔つきが変わってくる

──その元木さんから見て、現在のラグビー人気というのはいかがでしょうか。TLは各チームの努力もあって観客動員数はだいぶ安定してきましたが、2019年のW杯開催を考えるともっと高めていく必要はあると思うのですが。

元木:やはりラグビー人気の回復は、日本代表が強くなって注目度を上げることだと思います。2019年に向けては、もっとメディアと上手くリンクしてやっていくことも必要ではないでしょうか。ラグビー人気の高かったころは、冬といえばラグビーというようにテレビの中継も多かったし、僕らも日常的にラグビーが見られる環境にありました。それが今は、代表チームがどこで試合をしていて、11年ぶりにサモアに勝ったというようなことを、一般の方が目にすることもあまりないという状況になっている。そのあたりをしっかり変えていかないと、厳しいと思いますね。2019年にW杯を日本で開催するとなると、国民的な関心も高まるでしょうから、いろいろなメディアで結果に接する機会も増えると思います。そうした中で強い日本代表を見てもらうということが、一番の人気回復策になるのではないでしょうか。

──そういう意味ではU-20だけでなく、SCIXの中高生たちにも活躍の期待がかかりますね。

motoki元木:そうですね。彼らには高校ジャパンもありますからね。中学生も含めて底辺の拡大をしていかないと、すぐにW杯の年になってしまいますね。でも面白いですよ、選手を指導するのは(笑)。しっかりとした指導をしていけば、選手というのは一か月ぐらいで顔つきが変わってきますからね。人間的にすごくしっかりしてきます。そうすると、ラグビーのプレーの質もぐっと上がって、見る見る変わってくるんですよ。そういうのを見たら嬉しいですし、楽しいですよね。だから、僕の中ではトップリーグのトップチームだとか日本代表だとかでプレーする選手が、早くSCIXの中からも出てくれたら嬉しいな、と。だって、夢があるじゃないですか。日本ラグビーの主流ではないクラブチームの中から日本代表が出てくれたら。そういう形になればすごくいいと思いますね。

──そのときには、元木さんも日本代表を率いているかも知れませんね?

元木:いやいや、そこまではまだ考えていません(笑)。

元木元木由記雄(もとき・ゆきお)
1971年8月27日、大阪生まれ。突破型のCTBとして19歳で日本代表入り。W杯には91年の第2回大会から4大会連続で出場。96年には日本代表主将も務める。代表キャップ79は歴代最多。大工大高(現常翔学園高)2年時に全国制覇、明大では3度の学生日本一、神戸製鋼でも3度の日本選手権優勝。03年度のトップリーグ元年には神戸製鋼コベルコスティーラーズを初代王者に導き、MVPを獲得。日本ラグビー界の顔として「ミスター・ラグビー」ともいわれた。09年度シーズンで現役引退後はスティーラーズのチームアドバイザー、U-20日本代表のヘッドコーチほかSCIXラグビークラブのコーチを務める。
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