SCIXコーチインタビュー【第三弾】YUKIO MOTOKI
「4H」を軸に日本の強みを活かしたチームを作る

──日本代表として最も多く、海外の強豪国と戦ってきた元木さんの言葉だけに説得力がありますね。では、U-20の年代も含めこれからの日本が世界と伍して行くためには、何が必要だと思われますか?

元木:よくそういう質問をされるんですが……(苦笑)。でも、そういうものは皆さんが考えるほど複雑なものでも、難しいものでもないんですよ。例えばメンタルが強いとか、基本プレーがしっかりできているとか。言葉にすると当たり前すぎて「えっ?」と思われるかもしれませんが、その当たり前のことを、どんなゲームでもブレずにやり続けられる選手が、僕らから見てもすごいと言えるプレーヤーなんですよ。だから、そんなに難しい話でもないんですが、でも実際にできるかというと、その当たり前のことをすることが難しいんです(笑)。だから指導者は、その点をどれだけ選手たちに理解させられるか。また、それをどれだけ徹底してチームとしてできるか。だから、もっとシンプルに考えて
日本の強みを徹底して出せるようなチームを作るべきだと思いますね。

──具体的にU-20日本代表では、どんなテーマを打ち出されたんですか?

motoki元木:今回のチームでは「4H」ということを考えました。「HIKUKU(低く)」「HAYAKU(早く)」「HAGESHIKU(激しく)」、ラスト20分を「HASHIRIKATU(走り勝つ)」──この四つのキーワードを軸にチーム作りをしました。その中でも低くて素早い動きというのは、昔から日本ラグビーの特徴としていわれていることですよね。そこに激しさと、最後まで相手に走り勝つ持久力や走力を加えていけば、日本の強みを出せるチームになるだろうと思ったんです。実際に僕の経験でも、これだけ徹底して自分たちの強みにこだわって
戦ったというのは記憶にないんですよ。だから、ここにむちゃくちゃこだわりをもったらいい、と。実際、選手にしてみれば「ジャパンとしての軸はこれだ」「俺たちにはこういう強みがあるから海外のチームとやっても勝てるんだ」ということがないと自信を持って戦えませんからね。だからU-20とはいえ、日本の強みはこれだというものを打ち出して、それを理解させることがまず大事だろうと考えたんです。この「4H」は若い世代を指導しているコーチの皆さんにも、ぜひ理解していただきたいので、ラグビー協会を通して広めてもらおうと、今働きかけているところです。

──そういうお話を聞くと、指導者として早くも成長しているなと感じますね(笑)。

元木:いやあ、指導者としてはまだむちゃくちゃ新人ですから(笑)。まだ一年生です、コーチとしては。回りのスタッフの人たちに助けてもらっているからできているんです。

つい夢中になりすぎて、翌日、筋肉痛になることも

──さて、この6月からはSCIXラグビークラブのコーチとしても、中高生の指導を担当されています。SCIXに集まってくる選手は、自分の通っている学校にラグビー部がなかったり、高校で名門といわれる強豪チームに入部したものの、練習について行けず、それでもラグビーが好きでやりたいという子供たちが大半です。そうした子供たちにSCIXでは、まずは楽しみながらラグビーの面白さやチームプレーに重要な他者への思いやりといったものを学んでもらおうという理念を持って指導しています。そうしたクラブチームでの指導に、戸惑いなどはありませんでしたか。

元木:SCIXの活動には神戸製鋼も社会貢献の一環として理解も支援もしています。僕もラグビーを通して社会貢献することに、現役時代から興味がありましたので、SCIXで経験の少ない中高生を教えるということに違和感はありませんでした。選手たちもいろいろな世代の子たちがいますし、大阪からわざわざ通ってきている子もいますから、それぞれに面白さを見出しているんだと思います。そういう僕自身も、結構楽しくやらせてもらっています(笑)。練習は毎週木曜日、午後6時15分から8時30分まであるんですが、最初から最後まで子供たちと一緒に夢中になってやってます。SCIXは練習の大半をゲーム形式のタッチフットを取り入れているんですが、つい夢中になりすぎて翌日、筋肉痛になったりしていますからね(笑)。そうした楽しく練習をする中でも、いままで出来なかったことが出来るようになったり、試合に勝ったり負けたりすることで、彼らも学ぶところはあるでしょうし、ラグビーの成長だけでなく、人間的にも成長して行くことのサポートが、SCIXで少しでもできたらと思っています。

──最近の子供たちについて、何か気付いたことはありますか。今村コーチは「今の子たちの方が飲み込みが早くて驚いた」とおっしゃってましたが。

motoki元木:それは武藤さんと今村君のコーチングがいいんだと思います(笑)。でも、ちょっと話をしただけでも、すごく素直な子が多いということは分かりました。よく大人は、今の子はという言い方をしますが、そんなことは全然なかったですね。もちろん昔のように、理不尽なことも、これは練習なんだと言われれば何でもかんでも受け入れるという世代ではないでしょうが、少々キツイことに対しても、こちらがきちんと説明し、筋を通してやればみんな必死についてきます。だから、今の子はどうだとか、そういうことを感じたことはまったくありませんね。

──元木さんの中で理想とする指導者像というものはありますか?

元木:高校時代の荒川(博司)先生、大学では北島(忠治)先生、社会人では平尾(誠二)
さんとか薫田さんとか、結構たくさんの方がいますね。自分では皆さんのいいところを取ってやっていきたいなと思っています(笑)。荒川先生や北島先生はその選手が将来的にどうやって伸びて行くか、勝ち負けよりもそのことを見据えて指導して下さいましたね。指導者というのは、どうしても勝つことを目標にしてしまいがちですが、それよりも将来を考えて選手を育てることに主眼を置いた指導者でした。それがすごかったと、今でも思いますね。U-20で僕がお手本とさせてもらっている薫田さんは、選手にも厳しいですが、自分に対しても厳しい指導者ですね。目標を明確にしたら、絶対に自分からは妥協しないというか。そういう意味では僕も似たタイプですね。ラグビーに関しては絶対に妥協しませんから。そういう意味では指導者として、すごく共感できるところが多いですね。

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