愛媛県今治市をホームタウンとするサッカークラブ・FC今治。日本サッカー界の名将・岡田武史氏がオーナーに就任し、2017年には、J3参入条件となる5000人収容可能な天然芝のホームスタジアム「ありがとうサービス.夢スタジアム」が完成した。SCIX理事長である、故・平尾誠二氏の「スポーツから社会を変えたい」という言葉がきっかけともされる岡田氏のオーナー転身。岡田氏が創り、育むFC今治、ありがとうサービス.夢スタジアムとは? SCIXスタッフが6月20日に慣行した視察レポートをお届けします。
老若男女がワクワクする、飽きさせない工夫。
新尾道駅で新幹線を降り立ち、レンタカーで一路スタジアムへ。
大林監督の映画のロケ地としても有名な尾道、尾道水道、そして、瀬戸内海に浮かぶ島々はなんともフォトジェニックで、しまなみ海道を渡るのは壮観、爽快!
今治インターで高速を降りると10分足らずでスタジアム到着。近くにはイオンモールもあり、休日を過ごすにはなかなかの好立地ではないだろうか。
私たちが到着したのはキックオフの一時間半前。既に駐車場には沢山の車が止められていて、入場ゲート付近のイベントスペースにはワクワク楽しそうな表情をした老若男女が大勢詰めかけていた。
入場ゲートでは、その日エントリー外のFC今治の選手自らがチケットのもぎり。ファンからのサインや写真撮影依頼にも快く応対している様子で、この距離感と歓待はファンには溜まらないだろう。
ゲートをくぐるとグッズやフードなどを販売するショップブース、イベントステージなどが設置されている。
鯛ラーメンや鯛めし、関前諸島のまぜうどんなど、ご当地フードをはじめ、美味しそうなメニューを見ているだけで楽しめる。どれにしようか迷いつつ、関前食堂の島のまぜうどんを注文。
コシのあるうどんに、島ひじきの肉味噌と温泉卵、そして、しまなみ街道エリアの名産でもある柑橘類のタレが掛けられていて、喉越しも良く、ピリ辛。美味しくいただいた。
愛媛で柑橘類といえば、やはりみかん。
みかんジュースの出る蛇口も設置されており、無料で飲めることから、子どもから大人まで行列。「これはSNS映えする。スマホで写真写真」と私の後ろに並ぶ人が連呼していた。
イベントステージでは地元ダンスチームによるダンスや、吉本の芸人による漫才などが披露されていた。そのほかラジコンレースが開催されるなど様々なイベントが展開され、来ている人を飽きさせない仕掛けがされている。
ピッチと観客、オーナー&選手と観客の距離が近い!
キックオフ時間が近づいたので、いよいよスタジアムへ。階段を上がると、目の前に青々とした芝が美しいピッチが広がっている。
メインスタンドへは、ゴール裏を通るのだが、これが実に近い。迫力満点の臨場感とスピード感を味わえるに違いない。ガンバ大阪のホーム・吹田スタジアムも陸上トラックのないサッカー専用スタジアムとして建設され、ピッチとの距離感が違うとサッカーファンに人気だが、この近さは比にならないだろう。
もちろんスタンドは階段状になっていて、前との段差がちょうどいいので、俯瞰で全体を観たいという人も見易くなっている。
また、バックスタンドが作られておらず、今治の街が見下ろせる形になっているのも、このスタジアムの大きな特徴。3年後を目処に、J1昇格の条件となる1万5000人収容のサッカー専用スタジアムを新設することを想定してのことかもしれないが、この開放感と見晴らしの良さは希少だろう。
キックオフまであと10分ほどというタイミングで岡田氏の姿を発見。メインスタンドに繋がる形でクラブハウスがあるので、観客のすぐ側をスタッフ、選手が行き来する。サインや握手を求めるファンたちに気軽に接する岡田氏の姿をキャッチ。ピッチと観客の距離感だけでなく、オーナーや選手と観客との距離感も大切にしているように感じた。
それは選手入場にも現れている。メインスタンドのど真ん中に花道を作り、観客が見守るすぐ側を選手が通っていくというスタイル。観客の拍手や声援を間近に感じられるという点では、選手にとっても嬉しいことと言えるかもしれない。
また、地元のサッカーキッズと共に入場するキッズエスコートがスタンダードだが、この日は地元JAのマダムたちをエスコートするという、なかなかレアな光景を目の当たりにし新鮮味を覚えた。
試合開始のセレモニーでは、郷土芸能でもある和太鼓が地元の女子高生チームにより披露。老若男女を楽しませる、大事にするという工夫があらゆるところで感じられる。
夢に向かって邁進する、ホスピタリティ満点の「夢スタ」。
いよいよキックオフ!
この日はMIOびわこ滋賀との対戦。「岡田メソッド」を踏襲したスタイルで、ボール保持率高く試合を進めるものの、なかなかゴールネットを揺らせず前半終了。ハーフタイム中に雨が降り始め、大雨の中後半スタート。かなりスリッピーなピッチに両チーム足を取られながらも互いに譲らず。そんな中、後半33分、途中交代の10番桑島良汰選手がゴールを決め、1-0で勝利をおさめた。
ハーフタイム中、FC今治のホスピタリティを象徴する、こんなシーンがあった。
ハーフタイムに入るや否や雨がポツポツ来たかと思うと一気にじゃじゃ降り。ズブ濡れになりながら、地元ダンスチームがダンスを披露。そこで驚いたのが、カッパやポンチョなどの雨具を持ち合わせていない観客に、スタッフが無料でビニールカッパを配布している!? しかも、スタッフ自らがスタンドを見渡し、一段一段席を回りながら。観客目線の行き届いたサービス。これには感動した。
大勢の人が集まる場所で大事な部分としてトイレ問題があるが、女性トイレの数はきちんと確保されており、出口と入口を分け一方通行に指示されているので混雑回避の配慮もされている。
快適に楽しい時間を過ごすための、きめ細やかな心配りがそこかしこに感じられた今回のスタジアム視察。
もちろん絶叫マシンもパレードもないが、あの世界的テーマパークを思わせるようなホスピタリティとワクワク感が感じられた。今治の、いや、四国の「夢の国」になる日も遠くないのではないだろうか?
岡田氏、そして選手、スタッフ、観客、今治市民の夢を乗せた航海は続く。FC今治の今後に注目すると同時に、岡田氏の描く未来に益々興味が湧いた。
取材・文/中野里美 構成/美齊津二郎(SCIX)