SCIXコーチインタビュー[第六弾]

竹内 佳乃YOSHINO TAKEUCHI


高校1年の時、SCIXラグビークラブ「女子の部」に入部。あっという間に楕円球の虜となり、大学卒業後はHonda HEAT(現・三重ホンダヒート)でリーグ唯一の日本人女性アナリストとして活躍してきた。「SCIX創設20周年WEB連載企画―それぞれのSTORY―」でこれまで歩んできた道のりを紹介した彼女が、コーチとして灘浜グラウンドに帰ってきた!SCIXが地域連携協定を結ぶコベルコ神戸スティーラーズのスタッフとの兼務で、ラグビー普及活動と併せて「SCIX女子中高生の部」の運営指導に携わる。6月からSICXラグビークラブに活躍の場を移して、1ヶ月(取材時)。「佳乃さん」と女子選手から慕われ、指導する姿も板についてきている。リーグワンという日本最高峰リーグの現場で経験を積んできた彼女がどのような指導者を目指すのか。また、今後の目標とは。竹内 佳乃の新たな挑戦がはじまる――。

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──おかえりなさい!ついにSCIX生まれのコーチが誕生しました。6月から「SCIX女子中高生の部」の指導をされているそうですが、これまでの感触は。

竹内:

昨年、三重ホンダヒートの活動がオフ期間中に『女子中高生の部』の練習に参加したことがあります。女子選手に混じってただ一緒にプレーしていただけですが、その時の経験からチームの雰囲気を事前に把握できていましたし、知っている選手がいたことはコーチングする上で助けになっています。初めてコーチという立場になりましたが、やりやすさは感じていますね。

──竹内コーチの高校時代と比べて、レベルはどうですか。

竹内:

昨年、練習に参加した時も思いましたが、レベルがとても高いです。SCIXは長年スペースにボールを運ぶラグビーを標榜しているのですが、パスが繋がるようになっていて。女子選手もラグビーの試合を見る機会が増え、全体的にレベルが上がっていると感じました。

──練習メニューは竹内コーチが作られているのでしょうか。

竹内:

『女子中高生の部』を指導されている今村(順一)コーチと一緒にメニューを作成しています。ボールをスペースに運ぶには、こういうスキルが必要だよね、という話をしながらメニューを作っていっています。

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今村コーチ(左)と練習メニューを打ち合わせ

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選手からは“佳乃さん”と慕われ、指導する姿も板についてきた
(取材日:2024年7月4日)

──リーグワンのトップチームでアナリストとして活躍していた竹内コーチが、ご自身にとって原点ともいえるSCIXラグビークラブでコーチを務めることになったのは、どういう思いからなのでしょうか。

竹内:

SCIX創設20周年WEB連載企画―それぞれのSTORY―」のインタビューでもお話しさせていただいたように『SCIXと女子ラグビーに貢献したい』という気持ちは、アナリストになってからもずっと持っていました。2020年に所属していたHonda HEAT(当時)と女子ラグビーチーム『三重パールズ』との合同練習で高校時代に一緒にプレーしていた選手が頑張っている姿を見て、女子ラグビーのために何かできることはないかと考え、それが女子日本代表のアナリストとして2022年のラグビーワールドカップニュージーランド大会に帯同することに繋がりました。女子ラグビーと再び関わるようになり、その思いがどんどん強くなっていったことや三重ホンダヒートで3人のヘッドコーチのもとでさまざまなコーチングスタイルを学び、自分自身でも女子選手を指導したいと考えるようになって。SCIXラグビークラブでコーチとして新たな一歩を踏み出すことにしました。

──SCIXが地域連携協定を結ぶコベルコ神戸スティーラーズの公式ホームページで、竹内コーチがタグラグビー教室にスタッフとして参加されている様子が紹介されていました。普及活動も担当されているんですね。

竹内:

SCIXで女子選手の指導を行うほか、コベルコ神戸スティーラーズのスタッフとして普及活動を行っています。普及活動はこれまでまったく経験がないので難しくて!これまで3校の小学校に行ってきましたが(取材時)、まず子供たちが話を聞いてくれません(苦笑)。今村コーチや長崎(健太郎)コーチ主導のもと、遊びの要素を取り入れながら、ラグビーボールに親しんでもらうようなメニューを実施していますが、あっという間に1コマ45分の授業が終わってしまいます。ラグビーをしたことがない、知らないという子供たちに対して、ラグビーの魅力や楽しさを伝える普及活動は簡単ではないですが、その分面白さを感じます。また、小学校で先生と話す機会もあり、教育現場ではスポーツをする機会を充実させようと取り組んでいるところだと教えてもらいました。そういう観点でも地域のプロスポーツチームがホストタウンでできることはたくさんあることがわかりましたし、今後この活動をさらに発展させていければと思います。

──普及活動をする上で、どのようなことを意識していますか。

竹内:

ラグビー人口を増やすために、その入り口となる大事な活動です。まず子供たちにラグビーが面白いと感じてもらえるようにしていかないと。今ある枠組みの中でさらにいろいろな工夫を施しながら、子供たちに楽しんでもらえて、ラグビーを好きになってもらえるような取り組みをしていきたいと思います。

──「SCIX女子中高生の部」の運営指導について伺いたいのですが、SCIXラグビークラブは選手によってレベルや目標が違います。それを踏まえて、どのようなチームを目指していますか。

竹内:

SCIXはすべての選手がラグビー中心の学校生活を送っているわけではないので、選手一人ひとりのレベルや目的が違うことに対して指導の難しさは感じます。1回の練習でも、学校の授業終わりに疲れ果てた表情でグラウンドに来る選手がいれば、モチベーション高く練習に臨む選手もいるなど、さまざま。疲れている選手にチームの雰囲気が引っ張られることもありますし、逆にモチベーションの高い選手が練習の空気をつくる場合もあります。雰囲気が良くない時にコーチから盛り上げたり、元気を出して練習に取り組むように指示をしたりすることはできますが、コーチから促すのはどうかなと。選手のレベル、目的は個々で違いますが、選手たちがコーチの指示を待つようなチームにはなってほしくないと思っていて。試合をするのは選手ですし、試合中に自分たちで判断してプレーしていかないといけません。そういう意味でも、選手が主体的に動けるチームにしていきたいと思います。あと、選手たちも『勝ちたい』という気持ちはあるんです。6月15日、16日、大阪・鶴見緑地競技場で行われた中学生の春季交流大会に出場しましたが、試合に負けた後、普段の彼女たちから想像できないくらい悔しそうにしていました。勝つためには、それなりに厳しい練習もしないといけません。これまで楽しさを前面に押し出した練習をしてきましたが、それだけではいけないんだなと感じさせられた出来事になって…。正解を模索しながら指導を行っているところです。

──勝つことが明確な目的としてある強豪校などと違って難しいところですね。竹内コーチはどういう選手を育てていきたいと思われているのでしょうか。

竹内:

なんとなくプレーするのではなく、状況を見て判断して、このプレーをしたと理由をしっかり言える選手を育てていきたいですし、それを手伝えるコーチになっていきたいと思います。というのも、私自身が高校時代、春の全国高校選抜女子セブンズ大会で、試合終了間際に同点のトライが決まった後、成功すれば逆転というキックを何も考えずにポンと蹴って外してしまったという苦い思い出があって。どうしてもっと落ち着いて考えて蹴らなかったんだろうと、試合後、めちゃくちゃ後悔しました。そういう経験があるからこそ、考えてプレーすることの大切さを教えていき、それを行動に移せる選手を育てていきたいです。

──世の中には多くのコーチングの本が出ています。コーチとして新たなキャリアをはじめる上で参考にした本はあるのでしょうか。

竹内:

小説などの本を読むのは好きなのですが、コーチングに関する本は読んでいないんです。アナリストとしての6年間で、ラグビーという競技の構造を理解し、ヘッドコーチが描くラグビースタイルに対して数値をデータ化して示すなどの作業を行ってきました。アナリストを経験できたことは、コーチをする上でメリットでしかありません。これまでアナリストとしてインプットしてきたことを今度はコーチという立場でアウトプットしていきたいと思います。

──これまでの経験はコーチングに活かすことができると。

竹内:

アナリストとして学んできたことはコーチングに活かすことができます。アナリストは数値や映像を出してコーチや選手に説明することが求められていたので、論理的に話すことが身に付きました。SCIXでも選手を指導する上で伝える能力は活かすことができます。また、トップチームほど大掛かりなことはできないですが、アナリスト時代に行っていた動画撮影も練習に取り入れていきたいと思っています。ほかにも、リーグワンのチームでトップレベルの選手を見てきたので、今後、SCIXの中から上のレベルを目指したいという選手が出てきた時に、目標に近づけるよう導いていけると思います。アナリストとして積んできた経験を女子ラグビーに還元できることが嬉しいですね。

──三重ホンダヒートでは国代表を率いた経験もあるヘッドコーチをはじめ、多くの指導者と仕事をされてきましたが、コーチングする上でどういうことが大事だと感じられましたか。

竹内:

学んだことはたくさんありますが、その中で一番大事だと思ったことは、発言に一貫性を持たせることです。チームの方向性や目指すラグビースタイルにおいて、しっかりとした考えを持った上で一貫性ある言葉で指導していかないといけません。これは何もコーチングに限ったことではなく、社会人でも同じだと思います。選手を同じ方向を向かせることができるよう、一貫性を大事にしてコーチングしていきます。

──目指すコーチ像というのは。

竹内:

多くのコーチを見てきましたが、女子選手を指導する上で今村コーチは私にとってロールモデルというべき存在です。元アナリストとしては今村コーチのコーチング能力を分析したいのですが、なかなかうまく表現できなくて、そこは悔しいのですが…(苦笑)。ただ1つ言えるのは、高校時代に今村コーチの指導を受けてきて、意見を否定されたことがないんです。選手からすると認められているような気持ちになりましたし、練習にも前向きに取り組むことができました。このコーチのもとでラグビーをしたいと思わせる何かが今村コーチにはあるんだと思います。私も選手にそう思ってもらえるようなコーチになっていきたいですね。

──竹内コーチの今後の目標を教えてください。

竹内:

SCIX女子中高生の部は、中学生10人、高校生8人なのですが、もっと人数を増やしたいという思いがあります。それと現在、社会人女子の部員も募集していて、将来的には女子15人制のチームを作りたいと考えています。女子の主流である7人制は、どうしてもスピードのある選手が中心になってきますが、15人制で求められるのはスピードだけではありません。15人にそれぞれの役割があり、さまざまな体型、能力を持つ選手が活躍できます。7人制とともに15人制にも力を入れていき、女子ラグビーの底上げに繋げていきたいと思っています。

──竹内コーチが考えるSCIXラグビークラブの役割とは。

竹内:

SCIXの良さは、気軽にラグビーに触れる機会を多くの人に提供できるところだと思います。中学生、高校生には、他競技を続けながら、SCIXに通ってラグビーをプレーしている選手も多いです。ラグビーに限定せず、ほかの可能性を持ったまま学生生活を送れるのもSCIXならではと思います。また、社会人というカテゴリーも増えたことで、より広い層にラグビーを楽しんでもらえるようになりました。私自身も高校生でSCIXに入り、ラグビーに出会ったという経緯があるので、特に女子選手がラグビーをはじめるきっかけが、SCIXであればいいなと思いますね。


SCIXに育ててもらった。そう感謝する竹内コーチ。だからこそ、SCIXはいつか帰る場所とも思っていたそうだ。これからは7人制のみならず、15人制ラグビーの普及にも力を入れていき、女子ラグビー界全体の底上げに尽力したいと決意する。また、自身が道を切り開いてきたように、女性でもアナリストやコーチなどラグビー界で活躍できる場があることを示していきたいとも。竹内コーチは、あふれんばかりのSCIX愛、ラグビー愛でこれからも突き進んでいく。

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竹内 佳乃(たけうち よしの)

1996年3月21日生まれ。兵庫県神戸市出身。高校1年の時にSCIX主催の「セブンズブロックアカデミー」のセレクションに合格しラグビーをはじめる。それを機に芦屋高校ラグビー部に入部し、男子とともに楕円球を追う。進んだ立命館大学ではトレーナーとしてラグビー部に入部。2年の時にニュージーランド留学した際にHonda HEAT(現・三重ホンダヒート)のヘッドコーチと出会ったことがきっかけとなり、大学卒業後は同チームで分析部門を担う。2022年には女子日本代表アナリストとしてW杯を経験した。

取材・文/山本暁子