そこで、“効率性、生産性”を重視した練習の組み立て方を、4つほど紹介しているわけですね。
勝 田日本には武道があったからでしょうか、どちらかといえば型にはめたり、階段を上るように物事を進めていくことが好きな国民のように思えます。武道の昇段試験もそうですよね。一つできたら、次へ進むというものです。ただ、とくに球技系のスポーツというのは、さまざまな要素が瞬時に複雑に絡み合いながらゲームが進んでいきます。極端な言い方をすれば、そういう競技の場合、ゲーム中に起こることを切り取って練習しても、その練習がゲームにそのまま繋がるというわけではありません。たとえばラグビーならば、パスの練習をしたからといって、試合になったらうまくボールを放ることができるとは限らない。実際のゲームでは、相手はプレッシャーをかけたり、タックルに来たりするわけですから。パスやキックというように分解された練習をドリルと言いますが、そういうドリルをうまくこなすことではなく、それをどうやって実際のゲームに応用していくかということが練習にとっては大切なことなんです。
当然、ドリルも必要ではあるわけですよね。
勝 田もちろんです。ある段階まではドリルも非常に重要ですし、決して段階的な練習方法を否定しているわけではありません。ただし、切り取った部分を練習しているときでも、完成形をイメージし、どこを取り出しているのかを意識して練習していかなければ、なかなか実践に結びつけることができず、その練習は非効率的なものになってしまいます。
「ヴィルプルー方式」という練習方法について書かれた中には、「失敗の体験」ということがありました。
勝 田「ヴィルプルー方式」というのは、ゆっくりしたテンポでゲームを行いながらいろいろなことを学ばせていく練習方法です。この特徴は、プレーヤーの考えでゲームを進めさせて、あえて失敗も経験させることころにあります。そして、なぜ失敗したのかを学習していく。つまり、どういう状態になったら失敗するのかということを、体験させているわけです。
球技というのは、「失敗のスポーツ」と言えます。イチロー選手は素晴らしいプレーヤーですが、彼でさえ打率は4割。6割は失敗をしている。ラグビーでも試合中、さまざまな判断が下されてプレーをしていますが、その中にはかなりの失敗があります。だから、失敗を少なくすることが、勝利に近づくことになる。ところが、コーチングでは「失敗」ということが、あまり真剣に考えられていません。練習中に「ミスをするな」という指導者は多いけれど、むしろ練習中には失敗をさせて「どういうミスをすると、どうなるか」ということを学ばせることは少ない。
なるほど、コーチングのうえで「失敗」というのは、重要な分野なんですね。
勝 田そうですね。「どう失敗させて、次にどうつなげていくのか」ということを、しっかりと考えて練習を組み立てることが大切だと思います。
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