どのようなコーチングをしていくかを考える上で、まず選手がどんな段階にいてどんな指導を必要としているかを見極めなければならないということですね。
勝 田はい、まずそれが前提となります。そして、コーチングの指針を考え進めていくわけですが、その際のキーワードが「知」だと考えています。
昔は、体育会の学生のことを「脳が筋肉でできている」と表現する風潮がありましたね。あたかも、ものを考えずに体だけを動かしているというイメージですね。スポーツをやる側にそう思わせるようなことがあったのかもしれませんが、冷静にスポーツを見つめてみると、そういった認識は大きな間違いであることがわかります。
本書にも例をあげましたが、サッカーのゴールキーパーは、残り時間や得点差、風向き、双方の戦術、位置取りなど、さまざまな情報を瞬時に取り込み、分析、予測をして、最良と判断した情報を味方に伝えています。自陣にボールがなく、あまり動いていないときでも、キーパーの頭の中はフル回転しているんです。ゴールキーパーに限らず、競技者というのはレベルの差こそあれこのような頭脳活動を行っていて、そこには判断力・集中力・決断力・想像力・コミュニケーション能力・認知能力など、実にさまざまな「知」が存在しているわけです。また、トップレベルになると強豪国に勝つために、そのスポーツにおける理化学、マネジメント、国際情勢、政治的判断など、プレー以外の場でもいくつもの「知」が駆使されているわけです。
話をお聞きしていると、まさにスポーツは知的活動だということを実感しますが、競技者や指導者にそういう意識は浸透しているのでしょうか?
勝 田まだ薄いように思いますね。そういったこともあり、スポーツにおける「知」をもっと考え、その重要性を認識してコーチングしてほしいという思いを込めてこの章を書きました。
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