ひたすら頑張る精神に目を向けて力を高めようとしてきた従来のやり方では、これからの競争を勝ち抜くことは難しくなっている。人間、誰しも持ち合わせている嫉妬心や向上心、競争心を理解しつつ、自分たちの心理的な強みや弱点を認知し、それをうまく利用しながら組織全体の能力を高めることが必要なのではないだろうか。専門の精神医学や心理学を駆使しながら、教育・受験や人材開発などのフィールドで活躍している和田秀樹氏と、組織の力を向上させるために必要な精神について語り合った。

和 田今年、僕が提案しようと思っているのが、「知的体力」という言葉なんです。

平 尾いい言葉ですね。具体的には、どういうことですか?

和 田知的体力は3つの要素から成ると思っています。ひとつは、例えば「こんなビジネスを始めたらうまくいく」とか「こうすれば売り上げが伸びる」などといったように、アイディアを考え出す知性です。知性を発揮するには、情報や体験などといった形で頭の中に知識の引き出しを持つことが必要で、その引き出しは多ければ多いほどいいと考えています。今の日本では、過去に行ってきた詰め込み教育は良くなかったと言われていますが、僕自身は知識を詰め込むことが悪いのではなく、詰め込んだ知識をどう使うか、あるいはその知識が本当に正しいのか検証してみる、という教育をしてこなかったことが悪いと思っています。

平 尾おっしゃるとおりだと思います。自分の持っている知識を使いこなせなければ、知性を発揮することはできません。

和 田ただ、知性だけでは十分とはいえません。考えついたアイディアがうまくいかなかった場合は、別のやり方を試してみる。それもダメならばまた別の方法を試す。そういう体力のようなものも必要ではないでしょうか。実際、うまくいかない場合はへこたれるわけですが、それで終わってしまうのではなく、その理由を分析したり、もう一回頑張ってみようと前向きに考えたりする気力や精神力も大切です。つまり、いろいろなアイディアを出せる知性と、それを実際に試せる体力と、へこたれない精神力、この3つを合わせて「知的体力」と呼ぼうと思っているわけです。昔と違って、今は答えがわからない時代だからこそ、「知的体力」が必要なんじゃないかと考えています。

平 尾なるほどね。僕も、現代は「知的体力」が非常に重要な時代だと思っています。昔から日本には恥の文化というものがあって、うまくいかなかったり失敗したりすることは「社会的に恥である」という感覚が一般的です。でも、それを乗り越えていくことが必要だし、失敗しても何度もトライすることに温かいまなざしを向けられる社会でなければいけないのだろうと感じます。
ちょっと前に、「リベンジ」という言葉が流行しましたよね。昔なら、失敗してもう1度挑戦するということはかっこ悪い話だったけれど、「リベンジ」という言葉がはやってからは、再挑戦することにかっこよさが出てきた。僕は、いい風潮だと思っているんです。我々が敗者復活の場を持っていかないと、これからの社会は良くならないんじゃないでしょうか。

和 田そうですね。

 

●プロフィール
●和田秀樹(わだ ひでき):精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。 米カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー。現在は、川崎幸病院精神科医コンサルタントを行うほか、一橋大学経済学部(医療経済学)非常勤講師。心理学、教育問題、老人問題、人材開発など幅広いフィールドをもち、テレビ、ラジオ、雑誌などでも精力的に活動中。また、インターネットを使ったカウンセリングサイト『ココロクリニカ』や、企業経営者のためのメンタルヘルスシステム『和親の会』なども主宰している。著書に、『嫉妬学』(日経BP社)、『新受験法2005年度版−東大合格の極意』(新評論)、『エリートの創造』(阪急コミュニケーションズ)『雑学力』(インプレス)など多数。
和田秀樹ホームページ
http://www.hidekiwada.com


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