ひたすら頑張る精神に目を向けて力を高めようとしてきた従来のやり方では、これからの競争を勝ち抜くことは難しくなっている。人間、誰しも持ち合わせている嫉妬心や向上心、競争心を理解しつつ、自分たちの心理的な強みや弱点を認知し、それをうまく利用しながら組織全体の能力を高めることが必要なのではないだろうか。専門の精神医学や心理学を駆使しながら、教育・受験や人材開発などのフィールドで活躍している和田秀樹氏と、組織の力を向上させるために必要な精神について語り合った。

平 尾先生の著書の『嫉妬学』を、たいへんおもしろく読ませていただきました。後ほど、「嫉妬」についてのお話もうかがいたいと思いますが、その前に、基本的なことをひとつうかがいたいと思います。いわゆる「精神医学」と「臨床心理学」というのは、どういう違いがあるのでしょうか?

和 田「臨床心理学」の対極にあるのが「生物学的精神医学」と呼んでいますが、それは、たとえば脳の神経の伝達物質を増やしたら心の病が治るというような、いわゆる「脳」の治療で心を治療する医学です。一方の臨床心理学は、カウンセリングや心のケアということが専門です。通常は精神医学はこの二つを含んだものです。わかりやすく言うと、薬が使えるのが精神医学、使えないのが臨床心理学ですね。なのに、日本の場合、大学病院の精神科では、薬の使い方などは学べるけれど、カウンセリング治療や心のケアの方法については、しっかり身につけることがなかなかできないのが現状なんですよ。

平 尾なるほど、そういう違いがあるわけですか。今のお話によると、日本の精神科医というのは、臨床心理学的なトレーニングを受けている人が少ないわけですね。

和 田そうですね。ですから、「うつ病」や、少し前まで分裂病と呼ばれていた「統合失調症」などのように薬でよくなる病気についてはいいけれど、たとえば大震災や犯罪に巻き込まれたときなどにおこる「トラウマ」だとか、池田小学校の児童殺傷事件の犯人のような「人格障害」のように、薬で治らない心の病のケアがしにくいというのが日本なんです。

平 尾たしかに、トラウマなどは薬で治りませんよね。でも、今の日本を見ると、トラウマやうつ病などのような病気に対する心のケアにニーズが高まっているように思いますが?

和 田そうですね。しかし、日本は未だに科学信仰が強いんですよ。アメリカでは科学信仰だけでなく心のケアが大事という方向性に進んできているし、さらに東洋医学を取り入れようという動きも出てきています。日本は「時代を進歩させよう」と思いすぎて、科学信仰という一点ばかりを見つめているというか…。

平 尾視野が狭くなっているわけですね。

和 田そうなんです。

 

●プロフィール
●和田秀樹(わだ ひでき):精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。 米カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー。現在は、川崎幸病院精神科医コンサルタントを行うほか、一橋大学経済学部(医療経済学)非常勤講師。心理学、教育問題、老人問題、人材開発など幅広いフィールドをもち、テレビ、ラジオ、雑誌などでも精力的に活動中。また、インターネットを使ったカウンセリングサイト『ココロクリニカ』や、企業経営者のためのメンタルヘルスシステム『和親の会』なども主宰している。著書に、『嫉妬学』(日経BP社)、『新受験法2005年度版−東大合格の極意』(新評論)、『エリートの創造』(阪急コミュニケーションズ)『雑学力』(インプレス)など多数。
和田秀樹ホームページ
http://www.hidekiwada.com


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