S C I Xところで、土田さんは著書の中で「トップリーグの成功のカギは、見てもらって楽しい、自分たちもやっていて楽しいラグビーが出来るかどうか」だと書かれています。つまり、ボールをより多く動かし、ファンをうならせるラグビーをしなければということですが、サントリーも今後はそうしたスタイルのラグビーを志向されていく予定ですか。
土 田大事なことは、トップリーグはテストマッチではないということです。国と国の代表が戦う場合は、お互いにどうしても勝たなければいけない、1点差でも何点差でも、とにかく勝利が優先される。そのラグビーとは質が違うようにならないといけないということです。例えばサントリーが神戸と2試合やって、勝ったとする。勝敗ということからすれば、いいラグビーをしたと。でも、実際やっているラグビーは、質が悪いということもある。「サントリーは神戸から70点取ったけれど、やってるラグビーは全然面白くない」「神戸の方がはるかにボールを回しているじゃないか」ということもあるわけです。そういう時には、見に来てくれたファンの人は「何だそのラグビーは。全然、面白くないじゃないか」ということをはっきり言う。ゲームを中継しているテレビ局も「あのラグビーは面白くない。質が違う」という点をはっきり指摘する。そういう環境を含めて「ラグビーの質」が変わっていかないといけない。ただ、勝った負けただけでは、う〜ん…、たぶん上手くいかないのではないかという気がするんです。
平 尾土田の言い方は、ちょっと極論でね(笑)。
土 田そうかな(笑)。
平 尾ただ、見ている人の目がやはり肥えてくれば、そうなると思いますよ。まあ、日本の場合は、ゲームを見るというよりも、まだチームのファンであるということから脱しきれていない。「どこどこのファンだ」という思いだけで見ているだけで、ゲームを見ようという人はまだ非常に少ないでしょ? だからまだ、そこまで行ってないというのが現状だし、ゲームというものを見る目はこれから肥えてくる。そのためには、今、土田が言った「より質のいいゲームをたくさん見てもらう」という必要性も出てくる。そういうものの中で、皆さんの見る目も肥えてくると思うんですが、まだそこまで行き着いていない。
土 田そうだね。
平 尾ただ、今、言ったようなことは大変重要なことで、要するに、トップリーグをスタートさせてもファンが根付いてこないと、このプロジェクトは失敗するわけです。やはり、たくさんの人が見に来てくれなければ。ということは、今の既にいるファンの数だけでは充分ではないということです。もっともっと、ファンを増やさなければいけない。ファンの拡大を図らなければいけないんですよ。そのためには、ゲームの質が上がっていかなければいけないのに、ただ勝てばいいということで、密集戦だけをバンバンやっているだけではファンは拡大しない。逆にものすごくファンが縮小することだってあり得る。こういう点を協会が認識して、どう意図的にハンドリングしていくかということも大変重要です。実際、構想段階では国内だけのローカルルールを作って、もっとゲームを面白くさせていこうといういうことも、あったんですよ。
土 田あったね。国内ルールを作ろうという案も。
平 尾例えば、ボールを蹴った側がもっと不利になるだとかね。それでは国際ルールに反することになるのではないかという声も上がったようだけど、「しばらくは、これで方向性を出すんだ」ということを、協会が強制的にやるということも手だと思うし、「そうしないと、ファンが根付かないよ」ということもはっきり示す必要もある。ただ、実際のゲームを見てみると、ボールをより回すゲームになってきているので、僕自身はその必要はないとは思っています。ただ近場の接近戦だけで、まったくリスクのない、勝てばいいというラグビーは今のところ見られない。だから、今直ぐに注意しなければいけないということはないと思いますが、今後そういうことがあるならば、それに関してはちょっと注意深く状況を見る中で、調整していく必要はあると思いますね。
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