日本のラグビーは03年から『スーパーリーグ』(仮称)のスタートが決り、ようやく世界を視野に入れた強化の時代を迎えようとしている。そうした中、東の強豪サントリーラグビー部は、いち早く「世界標準のコーチング、組織作り」に取り組み、01年度の日本チャンピオンに輝いた。「神戸(製鋼)を倒して日本一になることが、日本ラグビーの底上げを図ること」と従来の日本型ラグビーから脱皮、世界最強の豪州スタイルを取り入れ、見事、チャンピオンの座をチームにもたらした土田雅人サントリーラグビー部監督。平尾理事長とは同志社大時代のチームメイトで、平尾ジャパンではコーチとして代表チームを支えた無二の親友。果たして、その目に「世界標準のコーチング」とはどう映っているのか? 03年から始まる『スーパーリーグ』で、日本のラグビーはどう変わるのか? 企業チームを率いるひとりとして、今後のあり方をどう捉えているのか? スポーツ界全体の中で、ラグビーは今後どのような役割を果たして行くべきか? かつての平尾ジャパンで共に世界に挑み、現在は最大のライバルである神戸製鋼をGMとして率いる平尾理事長と、それらを忌憚なく語り合っていただいた。

S C I X今回は「世界標準のコーチング、組織作り」というテーマで、ラグビーの東西の強豪チームを率いるお二人に顔を揃えていただくことになりました。02年度のラグビーシーズンも佳境に入り、お二人の視野にはすでに「社会人大会」「日本選手権」制覇の道筋が描かれていると思いますが、まず話の発端として土田さんが今年7月、神戸製鋼を倒して日本のチャンピオンチームにたどり着いた際のノウハウを『勝てる組織〜サントリーラグビー部に見る奇跡の人材育成・活用法』という本にまとめられているので、その中身からいくつかテーマを拾ってお話をお聞きしたいと思います。

土 田わかりました。

S C I Xまず、この本に書かれていることで、最も興味を引いたのは、土田さんが監督を受けられた際に、「神戸製鋼を倒して日本一になる」「神戸製鋼を倒さなければ、真の日本一にはならない」と宣言され、それを目標に組織作りをされたとある点です。最初にそのあたりの真意をお聞かせください。

土 田神戸製鋼は当時のチャンピオンチームでしたし、メンバー構成を見ても、スタッフの陣容を見ても、やっているラグビーを見ても、日本の中では一番だと。トヨタ自動車と一度選手権を戦ったときも、負ける可能性はあるとは思いましたが、やっているラグビーとかメンバーではそんなに負けているとは思わなかった。僕は日本代表でも神戸製鋼のメンバーに会ってきましたが、みんな人間形成とか、素晴らしいメンバーがいる。そういうところからしても、僕の目指すのは神戸製鋼だと思ったわけです。

S C I X監督就任については、チームが停滞している時に会社側から「引き受けてくれないか」と話があったと書かれています。で、承諾されてからラグビーのスタイルを模索するためにオーストラリアに行かれた。それで、現在のスタイルである『継続ラグビー』を自分たちのチームに持ち込まれたということですが、これは神戸製鋼を倒すための戦術、手段として持ち込まれたということですか。

土 田目標は神戸製鋼としてはみても、ではどうやって倒せばいいのかという自分たちのスタイルが全くなかったんです。どういうラグビーをしたいのかということもなかった。95年に一度、僕が監督をしたときも、ただ「平尾のやっている神戸製鋼というチーム」、「自分達が7連敗をしているチーム」を倒すために、「一回だけ勝てればいい」というチーム作りしかしなかった。今回、社長と話をして言われたのは、「継続して組織も作れ。プラス、継続してサントリーというスタイルができないか」ということでした。そこで、新しいラグビーを作るためにオーストラリアに行ったわけです。当時、オーストラリアではすでに継続ラグビーが主流でしたから、自分たちもこういうラグビーをしたいなと。それで、「もうラグビーフットボールではない。ラグビーハンドボールだ!」と。それを目標に、一つずつ作り上げていったということなんです。

S C I Xそのスタイルを作り上げるために、時間的には2年を要したと・・・。

土 田そうですね。僕としては1年目が一番しんどくて、何を言われようがキックを使わなかった。それまでは、僕から見ても無理して回しているなというところがあったんです。だから、「自分らのスタイルをここ1年間で作らないと崩してしまう。そうなると、また以前と一緒だな」というところがあったので、そこをこだわってやったわけです。

S C I X土台作りということですね。

土 田はい、そうですね。

S C I Xラグビーファンとして見ると、最初の1年は、継続ではあるけれども体力勝負みたいなところがありました。その点を「おやっ?」と思われたファンも多かったと思いますが。

土 田体力勝負というよりも、どれだけ自分たちのやろうとしていることを理解しているかですね。サントリーの場合、1つのサインが出ると、かなり細かく決めごとがあるんです。それを選手がどれだけ理解していているか、がまん強くやり通せるかということなんです。そこを選手とも話しましたね。ただ選手によっては、「サインとは違う側が空いている場合は、そっちへ行きたい」という選手も何人かいたんですが、「それはまだいい」と。そんな話をしながら作っていったんです。

S C I Xなるほど。

土 田ただ、神戸製鋼と較べると、例えばうちの大久保(直弥)というキャップテンは、大学からラグビーを始めてまだ5、6年なんです。ところが、神戸製鋼の場合は(アンドリュー)ミラー選手にしても、増保(輝則)選手にしても、20年以上もラグビーをやっている。その判断力の違いというのは、やっぱり一番大きい。ここはペナルティで3点取る、ここはトライを狙って7点取るといった時間帯や点差によるゲームメイク、あるいはレフリングのくせとか、そんなことを読める選手が一人もいなかったですからね。そうなると、キャプテンの判断力やチームとしてのゲームメイクに頼るわけにいかない。それなら、最初からペナルティは狙わないとか、決め事を作ってしまえば「その方が簡単だろう」ということなんです。

 

●プロフィール
土田雅人(つちだ まさと):1962年10月21日、秋田市出身。77年、高校日本代表で副将を務める。このときの主将が平尾誠二。秋田工業高校を卒業後、同志社大に進学。NO8として活躍し、平尾とともに同志社大を大学選手権三連覇に導く。85年、サントリーに入社、89年からはラグビー部主将に。現役引退後、サントリーラグビー部監督、日本代表ヘッドコーチを歴任。2000年、再びサントリーの監督となり、今年2月には神戸製鋼を下して日本一に。著書に、神戸製鋼を倒して日本一になるまでの道のりをつづった『勝てる組織』(小学館)がある。

 

 
 
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