学校スポーツが、新しい局面を迎えている。これまでは道徳教育をその意義の中心としてきたが、ここにきて判断力やコミュニケーション能力など社会人として求められる重要な能力を養う場として見直され始めている。とくに、ラグビーは1チーム15人という構成や、各プレーヤーが瞬間、瞬間の判断力でボールをつなぐという競技上の特性から、社会人として重要なインテリジェンスを身につけるスポーツであることが語られ始めてきた。学校スポーツとしてのラグビーに新たな期待が生まれている反面、中学・高校という難しい年代の指導についてSCIXには実に多くの悩みや疑問の声が寄せられている。そこで今回は伏見工高時代の同友であり、現ラグビー部監督の高崎利明氏をお招きし、高校スポーツに求められるコーチングについて話を伺った。

平 尾人間的な教育に8割を費やしているという話があったけど、今の伏見工はラグビーの名門校として知られているわけで、指導者としては花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)に出て優勝することを求められるわけだろう?

高 崎まあ、そうだね。でも、僕も監督として4年前に優勝させてもらったので、ちょっと楽になったかな。それからさっきも言ったように、自分の中で「指導者ではなく教育者」という線引きができているので、割り切っている部分がある。つまり、ラグビーを通して道徳的な教育をしたり、判断力やコミュニケーション能力などを身につけさせたりするのが第一の目的であって、勝ち負けは結果として出てくるものという考え方。もちろん、勝つことを目標として置くことは必要だよ。そこに目標を定めてあげないと、がんばれないからね。でも、目的は勝つことではなくて、人間としての成長。だから生徒の親には、「社会に出たときに何事にもがんばれる自分、困難に立ち向かっていける勇気ある自分を作ってくれるのがラグビーというスポーツ。そういったことが養われる3年間であって欲しい」ということを話しているんだ。もちろん、結果として勝てればなおいいんだけど、高校の部活動で勝つことだけを求めてしまうのは違うと思うんだよね。

平 尾どうなんだろう、「強化」と「教育」の両立というのは無理なことなのかな?

高 崎いや、そんなことはないと思う。確かに、強化と教育は相反する部分もあるけれど、学生のレベルでは連動していて、教育をしていくことが強化につながっていくことも少なくないと考えている。伏見はとくにそういう部分が強いかもしれないね。

平 尾確かにそうだね。生徒の殻を破って素直な感情を出せるように変えてあげるという話があったけど、それによってラグビープレーヤーとしての質も上がるわけで、教育が強化につながっていく。

高 崎そうそう。高校日本代表の場合でも同じで、強化のために遠征に連れて行くけど、そこで終わらずに、彼らに「これからは自分でがんばっていく」という意識付けをしてあげる。これは教育になる。

平 尾そういう意識付けをしてあげれば、次への大きなステップにもつながるしね。

高 崎減ってはいるけど、もともと多いから。ラグビー部のある中学も、100校を超えるんじゃないかな。大阪は高校ラグビーでずっとトップレベルを維持しているけど、それは底辺がしっかりしているから。

平 尾そうなんだよね。

高 崎うん。そのあたりは、強化と教育がうまくかみ合っている部分。だけど、細かいところまで「強化、強化」となってしまうと、教育が離れてしまう。あるところまでは併走できるけど、さらに高いレベルを求めるとそうはいかない。ただ、教育者として考えると、高校では教育が前面に出てきていいんじゃないかと思っている。

 

●プロフィール
●高崎利明(たかさき としあき):京都市立伏見工業高等学校ラグビー部監督
1962年、京都市生まれ。伏見工から日体大へと進み、スクラム・ハーフとして活躍。高校時代は平尾誠二と同期でHB団としてコンビを組み、高校3年のときに第60回全国高等学校ラグビーフットボール大会で優勝を果たす。大学卒業後、中学校の保健体育の教諭として8年間、教壇に立つ。94年、恩師である山口良治氏からの誘いを受け母校伏見工に戻り、ラグビー部コーチに。98年に山口氏の跡を継ぎ監督に就任、2年後の第80回大会で優勝。高校日本代表監督なども務め、若手選手の育成に尽力している。

 

 
 
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