平 尾これは経済の世界でも言えると思いますが、最近は情報化社会になって、情報そのものが価値を持つ時代になりました。同様にスポーツも情報化社会に突入していているのですが、この情報化社会が日本人に適しているかどうか。実はあまり強味に働かない部分が多いのではないかと思う時があります。例えば、スポーツの歴史を見るとバレーボールがミュンヘンオリンピックで金メダルをとるほどの全盛期がありました。その時の強さは何かというと、それまでは世界になかったフォーメーションプレーです。Aクイック、Bクイック、Cクイックという奇抜な攻撃を、それこそ微塵も狂わないようなトレーニングで習得して行う、ものすごく繊細な技術があった。これを彼らはものすごい反復練習で獲得したのです。ところが、最近のバレーボールを見ていただくと分りますが、そうしたフォーメーションプレーが陰を潜めて、ゲームそのものがものすごく大味になっています。
なぜかというと、ラグビーもそうなんですが、そのフォーメーションプレーが昔は結構長持ちしたのに、今は情報化社会になってそのサイクルが非常に短くなっている。ラグビーでも昔「カンペイ(菅平)」というバックスのサインがあって、数年間その技術が世界で通用しました。なぜ通用したかというと、まず、南半球で使って……実際、そのプレーを使ってニュージランドから大金星を挙げたこともあるんですが、当時はそれが北半球のチームには分らなかった。その1年後に北半球へ行っても「こんなプレーがあったのか?」という世界ですよ(笑)。ところが今はテレビでもバンバン放送されるし、いろいろな解説があったり、技術的な分析をするメディアも出てきています。そうすると、今日やったプレーが明日はもう使えない時代です。技術のサイクルがものすごく早いんです。これはもっと言うなら、最近のアタックやディフェンスが一緒だと思います。以前は長いアタックの時間があって、その間にいろいろな強味を発揮することができた。それが今は短期間でアタックが終わって、すぐにディフェンスに入ってしまう。サイクルが非常に短くなっている。そうすると短期間に収益を上げるのがうまいところは、ガサガサと収益を集めて、ディフェンスの間はできるだけダメージを少なくする。「ここはしっかり耐えよう」と我慢のコンセンサスを取りながら、ある一定期間我慢して、またアタックに転じてガサッといくようなやり方にゲームの質が変わってきたように思います。ところが、日本がこれに対応しきれていない。スポーツも経済も、こうした質の変化に対応しきれていないということが大きいのではないかと思います 。

佐 野確かにおっしゃる通りだと思います。

 

 
 
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