平尾佐渡さんは指揮者ですから、「こんな空間を持った音にしたい」ということ大勢のオーケストラに伝えなければならないわけですよね。それは、どんなふうに指揮をして伝えるんですか?
佐渡これは、バレリーナとか役者などにも共通することだと思いますが、まず自分がイメージを持つことですね。ちょっと精神論的になってしまいますが、イメージを持つことによって指揮をするときの体の動かし方が変わってくるんだと思います。たとえば、腕を体の前に広げる動作でも、「僕は」というようにエネルギーを抱え込むイメージがあれば、腕の動きにもそういったものが表れて、オーケストラにもそれが伝わる。「あなたは」という時には、エネルギーを外に向けるイメージがあれば、腕の動きも自然にそうなるし、相手が2メートル先にいるのか、10メートル先にいるのかといったことも、イメージを作ることによって変わってくる。だから、イメージするということはすごく大切なことだと思うんです。そういった動きはある意味では「型」なのかもしれませんが、だからといって2メートル先の「あなたは」を表すために、家で鏡を見ながら練習しているということはありません(笑)。
平尾要は、そのときのフィーリングというわけですね?
佐渡そうなんですよ。フィーリングだけど、それできちんと伝えることができるんです。実は僕は、昨日日本に帰ってきたんですが、1ヶ月前にはイタリアに1週間いて、それからフランスに戻ってベルギーのオーケストラとのドイツへ演奏旅行があって、またイタリアへというスケジュールだったんです。
平尾それは、ハードですねぇ……。指揮者というのは、短期間にいろいろな国のオーケストラを指揮しなければならないわけですね。
佐渡そうなんですよ(苦笑)。それで、フランスのオーケストラとはフランス語で、イタリアのオーケストラとはイタリア語で、ベルギーのオーケストラとは英語でコミュニケーションを図るんです。
平尾それも、すごいですね。
佐渡「いったい、何カ国語しゃべるんですか?」という感じでしょ(笑)。でも、実際はたいしてしゃべれない(笑)。それでも、オーケストラと練習をしていて困ったことはないんです。もちろん、笑い話になるような小さなミスはしょっちゅうありますよ。でも、僕が何をしたいのかということは、どこの国のオーケストラにもちゃんと伝わるんです。
平尾なるほど。それはつまり、佐渡さんがしっかりと作りたい音をイメージすることで、オーケストラの人たちにもそれが伝わっているということなんですね。
佐渡そうなんです。ただ、これから先、指揮者としていろいろな活動をしていくことを考えると、もう一つ先の語学力も必要になるとは思っていますが、それよりもまず自分の作りたい音をイメージすること。それが大事なことなんです。
<<つづく>>
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