平尾でも、今回の留学はいい経験になっただろう?

大畑はい。

平尾本心ではもっと試合に出たかったという思いもあるかもしれないけど、経験という意味でいえば今回の留学は抜群の経験になったと思うよ。

大畑僕はいいまでずっと温室で育ってきたじゃないですか? どこへ行ってもたいがい試合に出られましたし。代表のときは確かに出られない時期もありましたけど、それは別として、大学でも社会人でもずっとチームで重宝されて試合に出ることが出来た。ところがいまはチームの事情とか、ルールの問題とかもありますけど、いままでのようには出られない。出られないということは、どこか自分にも足りないところがあるということだから、そういう部分ではより一層ラグビーというものに真剣に取り組まなければという気持ちにもなりましたし、試合に出られる喜びというものもをすごく感じました。

平尾そうなんだよ、そういう気持ちになるということが大事なんだよ。

大畑こっちへ来て2か月ぐらいして、やっと1stグレードで試合に出られたときはすごく嬉しかったですからね。なんか、桜のジャージで14番つけたときよりも、高校生のときにずっとレギュラーになりたくて、一生懸命に練習してやっとレギュラーポジションのジャージをもらったときに似た嬉しさがありました。

平尾いい話じゃないか、その言葉を聞いただけで今回はシドニーに来た甲斐があったよ(笑)。でも、そういう気持ちにはなかなかなれないものな、日本にいては。神戸製鋼でもそうだし、代表でもそうだし。

大畑試合に出られることが当たり前というか・・・、そういうものだと思ってしまうんですよね。

平尾そう、それが一番良くないことだし、選手の成長を妨げてしまう一番の原因でもあるんだよ。

大畑はい。

平尾ただ今回、大畑がそういう気持ちになれたというのは、自分自身が初心に戻れたことでいろいろなものが「素」で見られるようになったということだからね。いままで一人の人間として、プレーヤーとして成長してきて、いろいろな視点を持てるようになってきてると思うけど、それがもう一遍もとに戻ったことでいま置かれている状態を「素」で見ることができるようになった。そのことは、非常にいいことだし大事なことだと思う。

大畑確かに日本にいたら、きっとこんな気持ちにはなれなかっただろうなと思います。

平尾それだけでも大畑がこっちに来た意義はあるよ。ただ、さっきもいったように、大事なのはこの経験を大畑がどう生かしていくかだからね。そのためにも今後は神戸のため、代表のために以前のような爆発的なプレーで頑張って欲しいと思う。

大畑はい、頑張ります。

<<完>>

 
 
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