今、企業スポーツは大きな変革期を迎えている。長引く不況により企業がスポーツ部を抱えていることが大きな負担になり、スポーツを企業の広告塔や愛社精神の結束と高揚に利用することに以前ほどの効果が見いだせなくなっていることから、これからの企業スポーツのあり方が模索されている。そんななか、新日鉄では企業スポーツの新たな方向を目指し、野球部やラグビー部を始めとする7つのスポーツ部を、地域の住民や企業、自治体から支援を得て運営することを決定。これを受け、バレーボール部は昨年12月に法人化に踏み切り、株式会社ブレイザーズ・スポーツ・クラブ(愛称:堺ブレイザーズ)としてスタートし、地域に根ざしたクラブ運営に取り組んでいる。われわれSCIXはNPOという形態だが、目指すところはブレイザーズと同じ「地域密着型総合スポーツクラブ」の創設である。そこで、今回はブレイザーズのスーパーエースである中垣内祐一氏をお招きして、「地域密着型総合スポーツクラブ」の方向性などについて意見を交わした。

平 尾今お話しにあったバレーボール教室は、ブレイザーズの運営資金をまかなう事業の一つになると思いますが、そのほかにどんなものがありますか?

中垣内これまでブレイザーズの練習試合というのは、告知をすることもなく練習を行っている体育館でやっていました。それを、堺市の体育館を使って興行にすることを始めました。

平 尾つまり、有料ゲームにしてしまおうと。

中垣内はい、そうです。もちろん、ブレイザーズだけでなく相手チームの理解があるから出来ることなんですけれども。

平 尾そうですね。

中垣内それから、スポンサーの獲得にも今後、力を入れたいと思っています。Vリーグではルール変更があって、今シーズンから1社だけですがユニフォームにスポンサー名を入れていいことになったんです。

平 尾バレーボールの場合は、協会がJOC(日本オリンピック委員会)に加盟しているので、選手が個人でスポンサーを獲得してCMに出演することはできないんでしょう?

中垣内そうですね。CMに出るとしたら、「ガンバレ! ニッポン! キャンペーン」に協賛している企業だけですね。

平 尾選手の肖像権をチームが持つこともできないんですか?

中垣内現状では、すべてJOCが管理しています。

平 尾なるほど。しかし、これからはブレイザーズのように株式会社として運営しようとするチームがバレーボールだけでなくほかの競技でも出てくる可能性が高いですよね。それならば、肖像権などがもう少し緩和されないと、運営費をまかなうのは難しいでしょうね。

中垣内そうなんです。バレーボール教室や練習試合の公開などといった興行と、サポーターを募って会費を集めるといったことだけでは、十分な運営費を捻出するのは難しいでしょうね。選手の肖像権をある程度チームで管理できるようになると、収入の幅も出てくると思うんですが。

平 尾そういうことはチーム側だけが要望しても難しいので、これからは競技を統括している競技団体側がどうすべきかを考える必要があるでしょうね。競技団体自体も収益が得られるようにして、各チームへもうまく分配していくような方法をね。バレーボールはどうかわかりませんが、ラグビーの場合はラグビー協会の運営費もチームを抱えている企業に依存している部分がいまだに多いですから。

中垣内バレーボールも同じですね。

平 尾しかし、これだけ景気低迷が続くと企業も以前のようにはいかないわけだから、違うところからお金を集めないといけない。さらに、そうしたお金を各チームに分配していくような方式に変えないと、チームの存続自体が難しくなるという、今はそういう時代ですからね。

中垣内そうですね、そういう視点が各競技団体にもう少しあってもいいと思いますね。

 

●プロフィール
中垣内祐一(なかがいち ゆういち):1967年11月2日、福井県福井市生まれ。194cm、90kg。中学からバレーボールを始め、高校では同好会に所属。筑波大学に入ってから本格的に取り組み、1989年、大学4年ときの春の関東大学リーグでの活躍が認められ、全日本入りを果たす。同年開催のワールドカップに出場し、以来全日本のエースに。大学卒業後、新日鉄堺に入社。Vリーグ(日本リーグ時代も含めて)では、最高殊勲選手賞3回、敢闘賞3回、猛打賞3回、ベスト6賞8回と、数々の個人賞を受賞。また、92年のバルセロナオリンピックでは6位に入賞、ワールドカップ('89、'91、'95)、世界選手権('90、'94、'98)など、全日本選手として90年代の男子バレーを牽引。現在は、新生堺ブレイザーズでコーチも兼任している。

 

 
 
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