21世紀、スポーツはどのようにあるべきなのか? これからの社会の中で、スポーツはどういう役割を果たすことができるのか? スポーツの将来を語るとき、スポーツという狭い枠の中だけで考えを巡らせていたのでは、発展的な発想は得られない。広い視野をもって社会や時代をとらえていかなければならないだろう。村上龍氏はさまざまなジャンルを題材に精力的に執筆活動を展開し、そのどれもに独自の視点をもち時代の一歩先を見据えている。サッカーやF1をはじめ、スポーツにも造詣の深い村上氏とともに、21世紀の日本のスポーツのあり方について語り合った。

平尾村上さんは、これからのスポーツのあり方については、どんなふうに考えていらっしゃいますか?

村上これからはスポーツの持っている役割が、どんどん大きくなると思っています。なかでも大きな役割となるのが、社会格差を埋めるということではないかと考えています。

平尾といいますと?

村上国がある程度近代化を達成して豊になると、国家としての求心力はなくなってきて、個人という意識が強くなる。すると、そこには個人格差が生まれます。すでに、日本もそういった道を歩んでいますが、これからその傾向はますます強くなるでしょうね。

平尾つまり、貧富の差が拡大しますね。

村上そういう社会では、貧しい人々は非常にストレスを感じるし、自分が豊になれない社会に対して怒りを持ったりします。子どもたちも同じで、夢や希望を抱けずに荒れてしまうというようなこともある。それを放っておいたら、どんどん悪くなる。たとえば、極端な思想集団や新興宗教にのめり込むとか、オヤジ狩りをするとか。そういった悪い方向へ進んでしまう子どもたちがいっぱい出てくるわけですよ。

平尾すでに、出てきていますね。

村上そう。だから、そういうことを防ぐためには、カタルシスを与えてあげないと。

平尾スポーツには、そういった力があるということですね。

村上そうなんです。カタルシスを与えることで、悪い方向へ行かないようにする。だって実際にボールを蹴ったり走ったりするのは、気持ちがいいですからね。

平尾そうですね。理屈を抜きにして、楽しいもんです。

村上カタルシスを与えて社会のリスクをヘッジできるものは、スポーツや芸術、芸能ぐらいかな。他にはあまりないんですよね。

平尾なるほど。

 

●プロフィール
村上龍(むらかみ りゅう):1952年2月19日、長崎県佐世保市生まれ。武蔵野美術大学在学中の76年に『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞と芥川賞を、87年には『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞を受賞。79年に自らメガホンをとり『限りなく〜』を映画化したのを皮切りに、『トパーズ』『KYOKO』などこれまで5作品の監督をつとめる。また、インターネットにも活動の場を広げ、坂本龍一氏とホームページを作成し小説を連載したり、メールマガジンを主宰するなど幅広く活躍。近著に『希望の国エクソダス』(文芸春秋社)、『“教育の崩壊”という嘘』(NHK出版)、『すべての男は消耗品である。Vol.6』(KKベストセラーズ)など。

 

 
 
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