21世紀、スポーツはどのようにあるべきなのか? これからの社会の中で、スポーツはどういう役割を果たすことができるのか? スポーツの将来を語るとき、スポーツという狭い枠の中だけで考えを巡らせていたのでは、発展的な発想は得られない。広い視野をもって社会や時代をとらえていかなければならないだろう。村上龍氏はさまざまなジャンルを題材に精力的に執筆活動を展開し、そのどれもに独自の視点をもち時代の一歩先を見据えている。サッカーやF1をはじめ、スポーツにも造詣の深い村上氏とともに、21世紀の日本のスポーツのあり方について語り合った。

平尾村上さんは早くからメールマガジンやホームページなどを活用して、ご自分で発信していらっしゃいますね。

村上まあ、メディアに多少失望をしていたんですが、メディアの悪口を言ったところで何も変わりません。僕は日本を変えようなどとは思っていないけれど、メディアを批判するよりもメールマガジンやホームページなどを利用して、自分で自由に発信していくことのほうがいいのかなと思って始めたんです。

平尾その方が、合理的のように思います。生産性が高いというか。実際にメールマガジンを運営されて、反応はいかがですか?

村上無料で配信しているんですが、現在会員が9万2000人ぐらいですね。

平尾それは、すごいですね。金融や経済など堅いテーマを取り上げていますよね。

村上そうですね、メインのテーマは金融と経済です。2年間たちましたが、ここでこれだけは間違いないと確信したのが、「日本人は」とか「日本は」という主語が使えないということなんです。

平尾なるほど。日本という単位で、ひとくくりにできないということですね。

村上そうなんです。テレビのニュースショーをはじめとして、いろいろなメディアが至る所で「日本人は」「日本は」と使っていますが、もうそんなに均一ではないんですよ。たとえば、5%の人は世界を意識して実際に世界との関係の中で生きていて、10〜20%の人はそうやって生きていかなければと考えている。残りの6割ぐらい、ひょっとしたら7割ぐらいは何が起きているのかわらないけれど、変化している今の状況に不安を感じていて変わりたくないと思っている。そんなふうに、今の日本人は均一ではなくなっていると思うんです。だから、それを前提として発言をしないと、発言の真意が伝わらない。

 

平尾確かにそうですね。世界との関係の中で生きている5%の人に対して発言するときに、「日本人は」と括ってしまったのでは発言がぼやけてしまいます。

村上実際、選挙のときに政治家は「国民のために」と言うけれど、「国民」という言葉に対応する人たちは同じではありません。ある政治家の「国民」は田舎の人だったり、別の政治家は都会の人を指していたり。あるいは、中高年、高齢者、若い人、年収の差など、実際にはいろいろ分かれています。ところが、政治家が「国民のみなさん」と言ったのを、日本のメディアはそのまま流してしまっている。政治家によって利益を代表する人たちが異なっているということを伝えずに、相変わらず日本人をひとくくりにとらえてしまっているんです。

平尾そうですね。ただ、都合がいいから、僕もよく使ってしまいますが…(笑)。

村上ヨーロッパなどでは、あまり言わないんです。実は、この前外人記者クラブで講演をしたんですが、その時に日本にいる各国の特派員にアンケートをとったんです。報道するときに、たとえばイギリスの特派員ならば「イギリス人は」と、フランスの特派員ならば「フランス人は」と使うだろうか、と。その中でおもしろいと思ったのが、「戦争の時にはよく使った」というものですた。つまり、戦争時は国と国との利害がハッキリと対立しているので、国や国民をひとくくりにするような表現が使えるんです。

平尾なるほど、おもしろいですね。やはり、「日本人は」というようにひとくくりに下言い方をするところはあまりなかったんですか?

村上なかった。どこの国の特派員も、現在はほとんど使わないという答えでしたね。それぞれの国の人たちが、ひとくくりにできないほど多様化してきているから、使えないですよ。「これから、フランス人はどう生きればいいか」などという質問は成立しないでしょう。いろいろな階層や職業などがあるわけですから。

 

●プロフィール
村上龍(むらかみ りゅう):1952年2月19日、長崎県佐世保市生まれ。武蔵野美術大学在学中の76年に『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞と芥川賞を、87年には『コインロッカー・ベイビーズ』で野間文芸新人賞を受賞。79年に自らメガホンをとり『限りなく〜』を映画化したのを皮切りに、『トパーズ』『KYOKO』などこれまで5作品の監督をつとめる。また、インターネットにも活動の場を広げ、坂本龍一氏とホームページを作成し小説を連載したり、メールマガジンを主宰するなど幅広く活躍。近著に『希望の国エクソダス』(文芸春秋社)、『“教育の崩壊”という嘘』(NHK出版)、『すべての男は消耗品である。Vol.6』(KKベストセラーズ)など。。

 

 
 
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