平 尾そうなんだよ。ラグビーというのは、そういう人間臭いところが非常に重要なんだよ。人間の弱さも出るし、強さも出るしね。特に自分の弱さが非常に良く分かる。例えばラグビーをやっててシンドイと思ったときに、なかなか我慢し切れないし、自分の気持ちを抑え切れない。そういうときに、自分の弱さがそこにあることに気付く。その反面、今元木も言ったように、自分の気持ちを奮い立たせることが出来たときに、思いがけない自分の強さを知ることもある。ラグビーの一番の良さは、このギャップを知ることだと思うね。自分はある状況になると、ものすごく弱いということを知ることもあるし、いやいやまんざら棄てたもんじゃないぞと分ることもある。その幅を知るということがすごく大事で、この幅が人生にとってはすごくいい勉強になる。
元 木そうですね。
平 尾ラグビーで言えば、すごく大きな相手と戦わなければならないとか、そういうときには、どんなに理想論をかざしたところで、自分を奮い立たせることはなかなか出来ない。それよりも、もっと“素”のままで行ったときに、活路が開けることが往々にしてある。さっき言った、自分の弱さと強さの幅の中でね。そのとき、それが上手くいったからといって、奇麗事を語る必要もないし、また上手くいかなかったからといって、全然だめだということもない。なぜなら、人間はその両方を持っていて、条件によってそれが出てしまう。それを、練習とか努力とかいろいろな経験を積んでいくと、その弱い部分を自分で抑制したり、コントロールすることが可能になってきて、いい“強味”が上手く出せるようにようになる。ゲーム前にどう気持ちをコントロールするか、覚えたりしてね。
元 木そうなんですよね。
平 尾そういうことは、元木のように多くの経験をしていく中で覚えていくわけでね。また、そうした経験を通して「弱い自分」とか、「下手くそな自分」とかを知ることで、今の元木のように、「そういうこともあるんだ」と気負わずに、正直に言えるいえるようになる。また、そういうことを知っている、経験している人間だからこそ、その体験を若い選手にも教えられる。そうでない人間が、いくらその「幅」を語ろうとしても、絶対に無理がある。人を説得させるだけの深い言葉は絶対に出てこない。
元 木そうですね。
平 尾だから、そうした経験を全部自分の人生の前提にしているから、普段の生活の中で何かあっても、「こんなこともあるなぁ」と笑って許せるようになる。「まあ、しゃあないやないか。次、頑張れよ」と言えたり、ね(笑)。それが、ラグビーの良さだと思うね。
元 木そうですね。
<<つづく>>
|