松 尾これまで話してきたリーダーシップ論に、もう一つ付け加えておきたいのが、「素早い判断、決定、実行力」ということですね。これがないと、どうにもならない。たとえば名古屋大学の場合ならば、部局長を集めて「皆さんのご意見は、どうですか」などといちいち聞いていたのでは、学校運営はスムーズには進みません。ラグビーなんか見ていても、瞬間の判断と決定ができないと、リーダーシップは取りにくいのではないでしょうか。
平 尾そうなんです。先ほど先生は、山岳部でリーダーシップを鍛えられたと言われましたが、そのリーダーシップにも反射神経というか、スピード感のようなものは必要ですか?
松 尾そうですね、物事によっても違いますが…。例えば、冬の山をかなりの時間をかけて登る際にどのルートにするか判断するときと、危険を回避するために瞬時に判断をするときとでは、自ずとスピード感は違ってきます。
平 尾なるほど。登山では、一瞬のうちに生死を分けるような判断をしなければならないこともあるでしょうし。
松 尾そうですね。たとえば、冬の岩場を登っていて落ちる時にどうするかというと、背中を向けて足で岩を蹴るんです。ハーケン(岩の割れ目に打ち込む釘で、ザイルを通したり足場や手がかりにする道具)は二つ、三つ抜けてしまうけど、その方が助かる可能性が高い。その判断は瞬時にするわけで、先ほど話に出た「ひらめき」なんですね。ただ、「ひらめき」とはいえ、あるところまでの学習をしているからこそ、そういう判断ができるんです。
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