平 尾これまでJOCは選手の肖像権を管理することで、スポンサーからお金を集めて、資金に困っているような小さな競技団体にも分配するということをしていたわけですね。
河 野そういう考え方が、厳しくなってきているんでしょうね。僕は、基本的には国からの補助金がもう少しあってもいいと思っています。日本の場合、スポーツ全体に使われているお金のうち、トップ選手に使われる額が非常に少ないんです。僕自身は、日本はスポーツ先進国だと考えていますが、政策がトップ選手の活動にフォーカスされていないような気がします。
例えば、日本にはナショナル・トレセンがない。だから、スポーツ後進国だという人もいます。たしかにナショナル・トレセンはないけれど、47都道府県を見るとそれぞれにトレセンがある。ほかの国を見ても、各地域すべてにトレセンがある国は、そう多くはない。日本の場合、スポーツにかける予算の総額は多いのですが、一極集中的にトップ選手にお金をかけて育成するようなことがない。そういう中で、オリンピックであれだけの好成績を収めているのだから、かなりのものだと思います。
平 尾つまり、エリート教育というのは、日本では難しいということですね。
河 野そうなんです。
平 尾例えば、企業の中でも「幹部候補生」を集めて特別に教育するのは難しいですね。結局は「平等」をどう考えるかなんでしょうが、日本では特別な扱い関して、扱う方も扱われる方も非常に抵抗がある。ただ、世界トップクラスの選手を育てるためには、早い時点で素質を見抜いてエリート教育していかないと。とくにラグビーは、体格面とキャリア面で強豪国の選手と大きな差があるから、今後エリート教育を徹底していかないと、その差を縮めることができないのではないでしょうか。
河 野しかし、現実にはそれを容認する社会がまだまだ成熟していないんですね。
平 尾ただ、民間ではすこし出始めているようです。ある企業では「社内ユニバーシティ」といって、リーダー育成のための教育機関を作っています。要するに、会社の中に大学を作って、エリート教育をしているわけです。僕はそこで講義を行ったことがあるんですが、さまざまな部署から1、2名選出して、1年間かけて教育をするということでした。やはり、企業にとって最後は人材がものをいうということなんでしょう。
河 野それは、すばらしいですね。
平 尾それから、NPO法人でもリーダーシップ養成塾を行っているところがありますね。原則としてひとつの企業から一名のみ受講生を受け入れて、その費用はかなりかかるようですが、大手企業が多数参加していると聞きました。昔から「リーダシップ養成講座」といわれるものはありましたが、こんなふうに特化したエリート教育はここ最近のことのように思います。エリートの育成が企業に大きな利益をもたらすということが、認められつつあるんでしょうね。
河 野人材は、企業経営において柱になるわけですからね。
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