これまで、学校や企業単位で行われてきたスポーツが、大きく変わろうとしている。余暇時間の増大や健康への関心の高まりなど、人々がさまざまな形でスポーツとの関わり求め始め、行政も「総合型地域スポーツクラブ」の育成に取り組み始めている。だが、その一方では、スポーツが地域文化として必ずしもスムーズに根付いていかない現実を指摘する声も多い。スポーツを地域の“文化”として根付かせるためには、今、何が必要なのだろうか。スポーツ振興の現場をフィールドワークにしている大阪体育大学教授・原田宗彦氏と語り合った。

平 尾今回はスポーツを見る側についても、視野に入れて話をしていきたいと思います。ここ数年、野球やサッカーのトップクラスの選手が海外でプレーするようになり、日本のプロ野球やJリーグはファーム化してきているという意見が強くなっています。そして、そういう状況では人気低下を招く、だから選手の海外流出は今のうちから食い止めるべきだという意見も出てきました。でも僕は、選手が海外に行くことが、即、人気低下につながるのかというと、決してそんなことはないと思っています。たとえ、サッカーの日本代表選手11人全員が海外でプレーしたとしても、Jリーグの人気が落ちることはないのではないか、と。むしろ、世界への登竜門としてJリーグがあるという大きな視点のほうが大事だろうし、ゲームを見る側もそのほうが力が入るだろうと思っています。

原 田そうなんですね。おもしろいもの、価値があるものには、人が集まります。たとえば、1996年に僕はヴィッセル神戸がJリーグ(現J1)への昇格をかけて戦った試合を見に行きました。神戸という地方都市で、スター選手をそろえていたわけでもないけれど、会場となった神戸ユニバー記念競技場は満員でした。

平 尾確かに、J1に昇格できるかどうかというような戦いをしていると、盛り上がりますよね。

原 田スポーツというのは希望を売るという側面もありますから、提供する側はそういうことも考えてプレーなり、チームの運営をしないとだめなんです。

平 尾「J1に昇格できそうだ」とか「優勝できそうだ」、あるいは「勝てそうだ」という希望が、お客さんを競技場へ向かわせる。

原 田そう。だから、大切なのはホームで負けないということです。理想的には勝つことですが、それが難しい場合はせめて引き分けに持ち込む。ホームでボロ負けするなんていうのは、絶対にだめです(笑)。野球の場合は、ローテーションの谷間というのがあって、ある程度負けも覚悟したゲームの組み方もありますが、サッカーはそうはいかない。もちろん、ラグビーもリーグ戦になればそうなるだろうと思います。

平 尾そうですね。

原 田ですから、ホームの1勝はアウェイの3勝ぐらいの価値があると言われています。たとえアウェイで大敗を喫しても、ホームで勝てばファンは気持ちをある程度満たすことができる。昨年、J1昇格を決めたアルビレックス新潟がものすごい盛り上がりを見せたのは、ほとんどホームで負けなかったことが大きく影響しています。確か、引き分けを挟んで、ホームでは13連勝しているはずです。

 

●プロフィール
●原田宗彦(はらだ むねひこ):大阪体育大学教授
1954年、大阪府生まれ。1977年に京都教育大学特修体育学科卒業後、84年ペンシルバニア州立大学体育・健康・レクリエーション学部博士課程修了(PhD)。鹿屋体育大学助手、大阪体育大学講師を経て95年より現職に。現在、日本オリンピック委員会ゴールドプラン委員、スポーツ振興基金審査委員、Jリーグ経営諮問委員会委員なども務める。著書に『スポーツイベントの経済学』(平凡社新書)、『スポーツ産業論入門第三版』(杏林書院)など。

 

 
 
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