平 尾では、うまく企業の力を借りるためにはどうすればいいか。僕はスポーツチームの存在意義を会社にアピールしていかないといけないと思っています。会社の経営も楽ではない時代に入り、実際に多くの企業スポーツが休部や廃部に追い込まれています。それは、チームの存在意義が薄れてきていることの証でもあり、企業スポーツそのものの価値が低下していることだと思います。

原 田こういう社会状況の中ですから、なかなか存在意義を見いだせなくなってきていることも確かですね。

平 尾これは、僕の個人的な考え方なんですが…。最近は各事業部門を独立させるカンパニー制を敷いている企業が多くなりましたね。実は神戸製鋼もそうなのですが、それぞれの事業部が独立した会社のようになっている。しかし、それぞれが独立しているとは言っても神戸製鋼という企業には変わりがない。ただ、そうした中で懸念されるのは、会社に対するアイデンティティがだんだん希薄になってくることです。

原 田なるほど。

平 尾では、社員のアイデンティティをどう維持させるか。そのためには、最近は、あまり使われませんが、「CI(コーポレント・アイデンティティ)」が必要だろう、と。それを具体的に表現できるのが、まさに企業スポーツではないかと思っています。

原 田なるほど。

平 尾さらに言うなら「CSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティー)」、つまり「企業の社会的責任」ということも重視されるようになると思います。この企業は、どんなポリシーを持ち、どういう社会的責任を果たしているのか。ここでも企業スポーツがその役割の一端を担えるのではないかと思っています。

原 田そうですね。そういうところが、スポーツの持つ魅力でもあるかもしれませんね。

平 尾たとえば、今までのように企業の一部として存在するのではなく、企業の色合いを出すようなチームとして活動したり、さらに企業と地域の接点を作ったり。チームのファンが、企業のファンになるような図式ができると思うんです。

原 田神戸製鋼のラグビー部は、それに近い感じですね。先日も試合を見に行きましたが、対戦相手の応援席はほとんど社員で埋められていたのに対して、神戸製鋼側は若いファンも多く、地域の応援団がたくさんいました。

平 尾僕の立場では、もっと社員にも応援に行って欲しいくらいなんですが…(笑)。でも、実際に地域の方の応援が多いんですよ。実はそこに地域との接点があるわけです。

原 田そういう視点が大切ですね。ラグビーを通して「神戸製鋼」というブランドに幅広い支援が集まってきたら、スポーツが地域と職場をつなぐ役割を果たすわけですから、素晴らしいことです。企業は、もっと戦略的にフィランソロピー(社会的支援)を行っていくべきで、スポーツチームを抱える意義というのも、その延長線上に置いて、もう一度問い直すことが必要でしょうね。

平 尾そして、企業スポーツの新しい時代に、そういう価値をどう作るかということですね。

原 田そうです。そのためには、チームの側も企業に対して、どういう価値還元ができるかをアピールしていかなければいけない。「あなた方が私たちのチームを持つと、こんなに良いことがありますよ」ということを、積極的にアピールする。そうでないから、ある日突然、廃部なんてことが直ぐに起こる(苦笑)。

平 尾そうなんですよ。企業チームは、存在意義を経営資源に還元する。それによって、会社はお金を出してくれるわけですから。価値を見いだして、会社に価値を還元する。そういうスタイルを築いていくことが必要ですね。

<<つづく>>

 

 
 
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