『フットボール・コーチングセミナー9』開催レポート

第2部:スポーツフォーラム
   『プレーの理解力を高めさせるために』

1.狙い

フットボールクリニック今回は、『プレーの理解力を高めさせるために』ということをテーマに掲げた。

フットボールは、1つ1つのプレーにおいて判断力が必要になってくる。また、プレーの意味を理解しているかどうかで、プレーの幅や選択肢が変わってくる。

そのため、普段から「考える」習慣を身に付けプレーの理解力を高めておくことが重要である。

そこで、3人のコーチに、これまでの豊富な経験からお話をしていただき、今後のコーチングに役立てていただくことを目的とした。

2.オープニング

フットボールクリニック司会の八木早希アナウンサーから3名のトップコーチとコーディネーターの紹介があったあと、早速フォーラムが始まった。

3.本論

今回のテーマである「プレーの理解力を高めさせる」重要性について、まずは平尾氏から総論として持論を展開していただいた。

ポイントは、次のとおり。

  • プレーにおける理解力とは、2つあるのではないか。
  • 1つ目は、プレーとゲームの間にあるもので、何のためにこのプレーをするのか? というプレーのTPOとも言うべきもの。
  • 2つ目は、プレーを掘り下げていく理解力で、このプレーをするためにどういう動き、鍛え方をしていけばいいのか? ということ。
  • この2つを真に理解していくことで、個人の能力は高まり、またそういった選手の多いチームは必然的に強くなっていくのではないだろうか。

続いて、サッカー、アメリカンフットボールにおける「理解力」の考え方について、トップコーチに語っていただいた。

まずは、最も戦術を重要視するアメリカンフットボールについて、鳥内監督から次のような説明があった。

  • アメリカンフットボールの場合は、1プレー1プレーが細切れであるため、そのプレーごとに11人それぞれの役割がある。
  • そのことをしっかりと理解させることが必要で、そのためには練習中から、選手一人一人が“本当に理解できているのか”ということを見極めていくことが指導者には必要となってくる。

和田氏からはサッカーにおける「理解力」の重要性について説明があった。

  • サッカーの基本は、「蹴る・止める・運ぶ」の3つの動きのある。このスキルを高めると同時に、判断力をどう磨くか。判断力の高い人間は、どの場面でどの技術を使って展開していくかの選択肢が増える。
  • フットボールの目的は、“点を取ること”にある。この最終目標に辿り付くためにどう動けばよいのかを考えることが重要となる。また、その動きの教え方は、年代によってさまざまである。
  • 小学生のうちは、子供のタイプにあった指導をすることが大切だが、まずは、ボールを持ってディフェンス抜いたり、「突破」することを教えて欲しい。そうすることで、相手を恐れず向かっていける選手を育てることができる。

和田氏が指摘した「1対1の強さ」について、あとの2人のコーチも全く同じ考えであると話が続いた。

平尾氏の考え方は、次のとおりである。

  • フットボールクリニック若くして戦略ばかりを教えてしまうと、個人の能力や猛々しさみたいなものが希薄になり、突破力が低下する。
  • 若いうちは、グローバルな戦い方、1対1で相手を抜く強さを教えていくことが重要である。
  • ただし、1対1で抜く強さがチームの勝利に繋がるということをしっかりと理解し、行動させないと、単なるワンマンプレー・エゴになるので、そこを注意して指導していく必要がある。

では、アメリカンフットボールのように、フォーメーションがしっかりした競技の場合は、どう教えればいいのだろう?

  • ディフェンス、オフェンスともに“走るセンス”、“追い詰めるセンス”が重要になる。こういった動きは、急ブレーキ、急スタートが基になっているので、子供の頃から鬼ごっこなど遊びの中で養うこともできる。
  • また、1つ1つのプレー全てに11人全員分のストーリーがある。そのことを1人1人にしっかり理解させ、自分の動きだけではなく全体像をイメージしながら動くようも教えて欲しい。

ここで、コーディネーターの美斎津氏から、「全体像を想像させる」こと、またその重要性を選手自ら「気づかせる」方法についての質問があった。

それについて和田氏からは、技術的な側面からの説明があった。

  • 例えば、パスを受け取る場合でも、どういった体の向きで受け取るかどうかで次のプレーの展開が変わってくる。これは、全体の動きをイメージできているかにも関わってくる。
  • その意識があれば、まず自分で考えるようになる。指導者は、練習の時から何度も質問し、考えさせ、本人に気づかせるようにもっていくことが大切である。

平尾氏は、さらに気づきには選手に声をかけるタイミングが重要だと指摘する。

  • 「気づき」は、理解力を高める上で非常に重要であるが、子供たちが、“聞く耳”を持っていないと、何を言っても耳に入っていかないし、理解しない。
  • 指導者は、子供たちが学ぼう、知ろうとしているタイミングを見つけ、その時を逃さず声をかけることが重要である。

1つ1つのプレーを何度も検証するというアメリカンフットボールの場合は、どうだろう。鳥内氏の意見は、次のとおりである。

  • フットボールクリニックアメリカンフットボールの場合は、練習からビデオを使うことが多い。その後に各パートの動きが正しかったかどうか何度も見直し、話をする。
  • そこで大切なことは、フィードバッグを繰り返すなかで、選手が本当に理解しているか、どう感じているかを聞き出し、“分かったフリ”をさせないことである。

ビデオという話が出たところで、情報過多の現代、情報ばかりに気をとられ、逆に考える習慣が身につかないのではないだろうかという質問が、さらに美斎津氏より投げかけられた。

  • 平尾氏は、情報があることは悪いことではないが、今は、情報を消化するのに必死で、「自分たちで考えて新たな情報を作っていく」ということができていない。情報が多すぎるとそれが不安材料にもなるので、指導者は、情報量を調整することが大切である。
  • 鳥内氏は、色んなプレーを見て参考にすることは大切であると話す。
    ただし、「自分たちにそのプレーは可能なのか? 人材はあるのか?」など、現実的な想像をし、話し合うことも重要になる。
  • 和田氏は、プロの試合などをみて子供たちが興味を持ったら、まずそのポジションを経験させてみることも大切という。いろんなポジションを経験させてみることによって、色んなプレーを選択できる自由さ、楽しさを学べるからだ。

では、どんな練習方法をしていけば、子供たちの想像力、理解力を高めていくことができるだろうか。

  • 日本の練習は、「切り取り型」すぎると、平尾氏は指摘する。
    部分を切り取って練習をしても、いざ試合になると何万とおりのパターンが出てくるため、計算通りにいかない。そのため、練習で行なった部分的な練習をどう全体に広げていけるのかが指導者の手腕になる。
  • 鳥内氏は、個人の一歩二歩の違いがチームとしては大きな違いになると話す。そのため、どの部分、どの段階で分からないのかを一人一人とじっくり話し、選手個人の理解力を高めていくことが大切になる。
  • 和田氏は、何回説明しても分からない子供もいると指導する苦労を語った上で、指導者には根気が必要という。また、選手個人の能力の差はあって仕方ないが、まず「楽しむ」ことを教え、ミスをしてもどんどん積極的にプレーさせることが重要という。

4.質疑応答

フットボールクリニックその後、質疑応答に移り、参加者より積極的な質問をいただいた。

Q,高校生にサッカーを教えている。いつも、テキストを作って渡しているが、まず頭で理解させる方がいいのか、体で覚えさせた方がいいのか、どちらがいいのか伺いたい。
A,ビジュアル的なものは、指導するときに非常に重要である。ただ、毎回テキストを渡しているとありがたみが減る。
情報は、集約させることも重要。そして、逆に1つの情報の落とし込みを深くしていくことである。(平尾氏)
Q,(教師から)
体育にスペースボールを導入させたい。
また、成功体験をさせることで、みずみずしい感覚を持ちつづけてもらいたいが、指導の際のヒントはあるだろうか。

A,トレーニングは、反復して行なうことが重要であるが、慣れてくると考えなくてもできるようになってしまう。だから、同じトレーニングでも状況を変えるなど工夫して子供たちに飽きさせないことが大切である。(和田氏)
Q,大学でスキー部の監督をしているが、未経験者が多いため、練習の段階で飽きてしまって退部する学生が多い。どのようにスキーの面白さを伝えていけばよいか。
A,一人一人とじっくり話をし、どこを目標にしているのかを聞き出し、そのためには何が必要か本当に理解させなければならない。頭ごなしに「やれ」と言われても自分が必要と感じなければできないもの。とにかく、監督と選手一人一人が同じベクトルを向けるように話し合うことが大切。(鳥内氏)

5.まとめ

1時間30分のフォーラムの間、受講者の方々は、熱心にメモを取るなど、真剣そのものだったが、時に、コーチの方々の話に会場が笑いに包まれるなど、和やかな雰囲気もあり、充実したスポーツフォーラムが展開された。

フットボールクリニック


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