●パネリスト
昌子 力(しょうじ ちから) 姫路獨協大学サッカー部監督
平尾誠二(ひらお  せいじ) 神戸製鋼所ラグビー部ゼネラルマネージャー 
鳥内秀晃(とりうち ひであき)関西学院大学アメリカンフットボール部監督
●進行
美斎津二郎(みさいづ じろう)SCIX web編集長

美斎津平尾さん、今「未経験の子ども」という言葉が鳥内さんから出ました。今日、来ておられる親御さんの中には、アメリカンフットボールやラグビーはコンタクトプレーがあって危険なので、子どもに積極的には勧められないという意見もあろうかと思います。小さい年代にどのようにしてボールに親しんでもらうか、プレーに親しんでもらうかを考えたとき、タッチフットやスペースボールが非常に有効になるのではないでしょうか?

平 尾そうですね。実は、今日それぞれの競技を見て思ったことがあります。今は少子化という問題もあり、どの競技も普及に努めていますが、いい人材を確保するのが難しくなってきています。人材を確保していくうえでは、最初は競技としておもしろいところ、いいところをまず味わってもらって、徐々に厳しいところに入っていくことが必要ではないかと思います。とくに最近の子どもたちは、いきなり厳しいことをやらせてもついて来ません。たとえばラグビーでタックルをやらせて、うまくできない子どもに「そんなことも出来ないのか。出来ないうたは練習に来るな!」なんて言ったら、本当に来なくなってしまいます(笑)。こういうことは、ほかの競技にも言えることです。だから、どの競技でも練習が非常にまろやかになっていますね。そして、おもしろさを感じたり、興味が出てきたところで、徐々にその子どもが消化できるだけの厳しさを与えていく。そういう方法をとらないと、定着しないのではないかと思います。そういったことは、これから必要な手法ではないでしょうか。

美斎津昌子さん、サッカーは少子化の時代にもかかわらず、競技人口が右肩上がりで伸びていますね。それはどのように分析されていますか?

昌 子
実はそれほど右肩上がりで伸びているわけではありませんが、競技人口が減少の一途をたどっているということはないようです。最近日本サッカー協会では、6歳、8歳、10歳というように2歳きざみで指導方針を出しました。子どもを、年齢ごとにこのようにトレーニングしていったらどうでしょう、というものです。その中には具体的な練習メニューもあり、指導の考え方を載せた教本、ビデオもあります。そういうものを見ても、今、平尾さんがおっしゃったように、サッカーも指導がまろやかになっています。我々から上の世代には、おそらく今の日本協会の指導方針について、「それでは甘すぎるのではないか」という考え方もあるようです。ただ、日本代表チームの試合の分析結果からも、体格的に劣る日本人が、最初からぶつかり合うようなサッカーをしても、勝てる確率は高くはならない。できるだけボールを動かして、なるべく相手とぶつからないようにするという考えが基本にあります。ヨーロッパなどのような「肉弾戦」のサッカーではなく、日本人的なサッカーをしようということです。そう考えると、ぶつかり合う練習をするより、ぶつからないようにする。相手をいなすとか、パスワークで守備網をかいくぐるとか。また、もしぶつかるにしても、「ケガをしないようなぶつかり方をしなさい」ということを奨励している。そうした背景も競技人口に影響しているのではないでしょうか。

美斎津今日、参加した子どもたちを見てると、年齢的には同じであってもサッカーの子どもたちはボールさばきが非常に巧みですよね。サッカーの場合、リフティングのように1人でボールを蹴って練習ができるということもあるかもしれませんが。

昌 子サッカーのコーチング講習会では、小学生という年代のうちに、言い換えれば神経系が発達する前にボールを動かす技能を身に付けさせたほうがいいと指導されます。たとえば、皆さんが小さいころ自転車に乗れるようになったら、10年、20年と年月を経て久しぶりに乗っても、上手に運転できますよね。それは、自転車に乗るという神経回路が体の中に出来ているわけです。それと一緒で、サッカーも狙ったところにボールを蹴るとか、飛んできたボールを止めるとかいう回路が一度出来上がってしまえば、年をとってもサッカーができるわけです。ところが、そういう神経回路が発達しないまま成長した選手、例えばは、気合いや根性だけで育った選手は、ある程度の年齢になればサッカーができなくなる可能性がある。実際、年を重ねると体力や根性だけに頼ってもスポーツは出来なくなりますね(笑)。今日もドリブルをしながらコーンを回るとか、細かなボールタッチの練習をやりましたが、それは小学生にはそういう練習を優先させるべきだと考えているからなんです。

美斎津今、おっしゃられた神経系の発達というのは10〜12歳くらいまでで「ゴールデンエイジ」といわれますが、この時期におよそ90%まで神経が発達してしまうようです。だから、この年代に俊敏さや巧みさを身に付けさせるわけですね。

昌 子そうですね。「強く早く」よりは、「ゆっくりでいいから丁寧に」という指導です。

美斎津平尾さんは代表監督をなさっていたときに、強豪国との違いについて、体の大きさだけでなく小さいころから芝生の上でボールを扱っているので、その能力が違うとおっしゃってました。それは昌子さんが言われたように、神経回路が発達する時期にボールに馴染んでいなかったということが大きいのでしょうか?

平 尾大きいと思いますね。前回、1999年のワールドカップに出場した日本代表メンバーは、高校に入ってからラグビーを始めた選手がほとんどでした。その時点で、すでにかなりのハンディキャップなんですね。もう少し早くラグビーを始めていれば、さまざまな動きに対してナチュラルに対応できると思います。それができないとなると、戦略を固めていかなければ勝てない。ところが、ラグビーは動きながらゲームを作っていく競技です。そのためには、個人の状況判断能力が要求されるわけですが、これも早く始めたほうが身に付きます。ですから、幼いうちにラグビーを始めている強豪国の選手たちは、ゲームの流れを読んだりつかんだりするのも巧みなんです。

美斎津判断力ともうひとつ、楕円形のボールに対する反応の速さはどうですか?

島 内それは、判断力との関係の話だと思いますが、やはり早くからラグビーを始めているほうがボールに対する反応もいいのではないでしょうか。それから、もう一つはグラウンドの問題ですね。芝生か土かは、大きな差だと思います。日本では、中学・高校・大学のグラウンドは、ほとんど土です。そうすると、転ぶたびにひざやお尻を擦りむくので、できるだけ寝ないプレーをするようになる。本来、ラグビーというのはボールを奪い合う競技ですから、寝ないでプレーするのは不可能なんです。地面に転がったボールにどれだけ早く飛び込むかという練習を普段からやっていなければ、試合になりません。グラウンドが芝であるか土であるかというのは、競技力を上げていくうえで大きな影響があるわけです。ですから、環境面の整備は、非常に重要な課題ですね。

美斎津
鳥内さん、ラグビーやサッカーと比べて、アメリカンフットボールは少しゲームの質は違います。さっき平尾さんがおっしゃられたように、ラグビーやサッカーは流れの中でゲームが作られていきますが、アメリカンフットボールの場合はある程度、流れを中断しながら進んでいきますね。

島 内そうですね。ただ、二次三次(攻撃)を考えていかないと、いいゲームはできません。そのためにも、あるいは決まった役割を柔軟にこなすためにも、体のバランス、走り方、条件反射といったことは、すべて必要なんです。ですから、私は選手たちにそういうところまで求めます。僕が見ている中では、いろんな球技を経験している選手のほうがおもしろいですね。僕自身も、アメリカンフットボールをやりだしたのは大学に入ってからで、高校まではサッカーをやってました。今日、サッカーの子どもたちを見ていたら、小学生なのにボール扱いがうまい。それと、走るバランスが非常にいいと感じました。そういう子どもたちが、後にラグビーやアメリカンフットボールに転向したら、スムーズに柔軟なカットが切れるようになります。あるいは、タックルに行って相手に振られても、付いていけるようになる。そういうボディバランスを持っていると感じました。これは大切なことです。というのも、どんなスポーツでも急ブレーキ・急加速は絶対に必要だからです。しかも、直線ばかりを走ることはなく、曲線を走ることのほうが多い。大学からアメリカンフットボールを始める者もいますが、どんなに足が速いといっても、棒立ちで走っていたのではなかなかボールに寄れません。タックルに行っても、ちょっとカットで振られるともう付いていけない。相手選手と1対1になったとき、相手がうまければうまいほど、バランスの悪い選手はミスを犯してしまいます。だから、ボディバランスを直すための練習を、大学でもやっているんですが、それではしんどいですよね。小さいときからいろんな競技をバランスよくやっていくと、どんな競技でも対応できるボディバランスが身に付くのではないかな、と僕は思います。

美斎津今日、ラグビーのクリニックの中で、相手をつけてその相手を抜き去るといった練習や、それからアメリカンフットボールのああいうゲーム(しっぽ取りゲーム?)などをあの年代からすでにやっておいたほうがいいということですか?

島 内そうですね。私は小さいこころ、鬼ごっことかボール遊びをやっていました。今の子どもたちは、パソコンばっかりやってるでしょう。それでは、スポーツの能力はなかなか開発されませんよね。日常の遊びの中で、ボディバランスを身に付けることがなくなってしまったように思います。それを取り戻すことも、これからは考えていくべきだと思います。

 
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