まず、この本をお書きになろうと思ったいきさつから、うかがいたいのですが。
勝 田僕は現在、仙台大学と大学院でコーチング理論やスポーツ指導論などを教えています。教える立場になって、授業をいかに組み立てるか考えたとき、日本のコーチングというのは経験的に伝承されているけれど、しっかりと体系立てがなされていないという壁に突き当たったわけです。これから若い人たちがコーチングを勉強するときに、どういうことを学んでいかなければならないかということが整理されていないんです。さらに、私自身もそうであったように、「スポーツって何?」「コーチって何?」というようなロジック、いわゆるコーチング・フィロソフィーと呼ばれるものを、突き詰めて学んでいくようなこともあまりされていません。
勝田さんもコーチをなさってきたわけですが、ご自身がコーチになるときはいかがでしたか?
勝 田自分のことを振り返ってみると、大学時代にラグビーをやっていたのでプレーの技術はそこで身につけてきました。しかし、ラグビーをデモンストレーションしたり、教えるという技術はまったく習っていないんです。
ただ、私はイギリスやフランスで勉強させてもらったり、オーストラリアでトップのコーチング研修に参加させていただいたりして、海外のコーチングに触れる機会に恵まれました。そのときに、たとえば「どうやって相手を説得させたらいいか」というような授業があって、試験にも出題される。相手を説得する話し方などの技術、つまりプレゼンテーション能力がコーチングには必要不可欠だということなんです。ところが日本では、心理学的なことは大学で学ぶかもしれないけれど、カウンセリングやプレゼンテーションの技術も含め、人と人との営みの中でコミュニケーション能力を発揮するためのトレーニングがあまりされていないんですね。
現在、日本のラグビーのコーチを見てみると、自分が選手としてラグビーをプレーしてきた経験と、大学でスポーツ社会学やスポーツ心理学を学んだ学問としての知識でコーチになるというパターンが多く見られます。大学でコーチングを教える立場にいると、果たしてそれでいいのだろうかという疑問が強くなってきました。そこで、自分自身の反省も含めて、コーチングを整理して体系立てたいと思ったわけです。
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