SCIXコーチ対談 『SCIXラグビークラブが育んでいるもの』
2000年7月のSCIX設立からほぼ1年後、01年4月に中学・高校生から大学・社会人まで、幅広いクラブ会員を一貫した指導体制で育成する「SCIXラグビークラブ」が誕生した。技術的な指導はもちろんのこと、SCIXの掲げるスポーツインテリジェンスをはじめとする知の育成にも重きを置いた指導体制の中から、すでに「トップリーグ」で活躍している選手も生まれているが、スタートから7年を迎えSCIXを含めた日本のクラブラグビーの今後にどのような手応えを感じているのか。中学・高校生の部で指導に当たっている武藤規夫(神戸製鋼ラグビー部OB)、平尾剛(コベルコスティーラーズOB)両コーチに、お話を伺った。
司会:美齊津二郎(SCIX理事)
撮影:荒川雅臣
兵庫県民大会を目標に練習に取り組んでいる

司会:SCIXラグビークラブがスタートして7年目になりました。現在の部員構成などを教えて下さい。

武藤:まず中高生の部については、設立当初は中学生が15名、高校生が20名ほどの規模でスタートしました。クラブチーム所属の高校生には、残念ながらまだ一般の高校生が出場する全国高校ラグビー選手権のような公式戦がないので、現在は兵庫県民大会を自分たちの公式戦として位置づけ、練習に取り組んでいます。これも設立当初、神戸製鋼ラグビー部の指揮を執りながらSCIXラグビークラブの指導もしてくださっていた萩本(光威・ドコモ関西ラグビー部ヘッドコーチ)さんが、「選手たちに、もっとゲームを体験させたいから」と、高校の先生方に声をかけてくださって、初年度から15試合ほど試合を組むことができました。そうした経緯を経てSCIXも兵庫県ラグビー協会所属のクラブチームとして認められ、02年度からは県民大会にも出場できるようになりました。現在は県民大会が選手たちの目標になっており、1〜2年生だけでも試合が組めるだけのチーム編成になりました。

司会:中学生の現状はいかがでしょうか。

muto武藤:中学生も付属中学のラグビー部の大会や、兵庫県協会所属のラグビースクールの大会はあるのですが、SCIXのようなクラブチームはそのどちらにも出場できないのが現状です。ですから、すでにどこかのスクールに所属していながら、練習はSCIXでやりたいという子たちはいいのですが、まったく未経験でSCIXに入ってラグビーをやりたいという子は、どちらかのスクールに所属してもらわないと公式戦が経験できません。ですから、そういう子たちには、二重所属にはなるけれども、試合を経験しないとラグビーは上達しないから、家の近くのスクールを探して所属しなさいと指導しています。それで、木曜日と土曜日にこちらに来て練習し、週末はスクールの試合に出てゲーム経験をしなさいと。でも、そうして育った選手の中にも、すでに京都成章や大阪桐蔭、大工大といったラグビーの強豪高で活躍している子たちが何人にもいます。高校生では今年、立命館大学でレギュラーとして活躍している選手が3名もいますし、コベルコスティーラーズの山本翼選手のように、浪人時代の1年間、SCIXで練習しながら同志社大学に受験して入り、卒業後に神戸製鋼に入社して選手として活躍しているケースなど、いろんな例がありますね。

個々人が成長することに重きを置いた指導を行なっている

司会:平尾さんは昨年いっぱいで現役を退かれ、今年からSCIXの運営事務局に籍を置き、武藤さんと一緒に選手たちの指導に当たっておられますね。

平尾:ちょうど昨年の今ぐらい(12月)から、指導をさせてもらっていますから、まもなく1年になるところです。それまで神戸製鋼では、ゲームに勝つために一所懸命自分のパフォーマンスを高めていくという環境の中でラグビーをやってきましたから、最初にグラウンドに足を運んだ時は、みんな荒削りというか、プレーもまだおぼつかない子も多いなという印象でした。しかしその反面、僕自身が中学・高校とそこそこ強いところではありましたが、1年間に休みが何日もないといったように、厳しい練習を伝統にしているところではなく、比較的自由にノビノビしたところでラグビーをやってきましたから、少し懐かしい感じというか、SCIXもノビノビやっているなという印象を持ちました。

司会:実際にコーチとして指導に当たっての印象はいかがでしょうか。

平尾:まだみんな荒削りで、基本プレーにしてもまだまだこれからという子たちがほとんどですね。ですから時には、いい加減に映るプレーもあったりして、つい怒りたくもなってしまうこともあるんですが(笑)、でも、SCIXに入ってくる子供たちの目的は何だろうと考えると、僕らが目指すべきものは強豪高のように3年間で強いチームを作ることではなくて、ノビノビとやりながら個々人が成長することに重きを置くことであり、ゲームを通してチームプレーの大切さや学校や年代の違う、ラグビーをしなければ出会えなかったような友だちをたくさん作ったり、そうしたラグビーの楽しみを3年間で味あわせてあげることに尽きると思うんです。そう考えると、全てを「アカン、アカン」で縛ってしまうのはよくない。子供たちにもクラブラグビーというものを学んでもらうためには、僕ら自身が「あまり言い過ぎたらあかんな」ということを改めて感じているところです。

[index] [1] [2]