第5回『SCIXスポーツ・インテリジェンス講座』リポート 6月4日号
今や「なでしこジャパン」と言えば女子サッカー日本代表の愛称として誰もが知るところ。この夏の北京五輪でもメダル獲得に向けて活躍が期待されていますが、その日本代表チームで中心選手として長く活躍し、日本女子サッカー史上初の五輪出場となるアトランタ五輪では、代表キャプテンとしてチームを牽引したのが、現在は解説者としても活躍中の野田朱美さんです。まだ女子サッカーが社会的に認知されていない時代、中学3年生で代表入り。95年の第2回FIFA女子ワールドカップでは、強豪ブラジルを相手に2得点(日本人選手初のゴール)を挙げ、ベスト8入りを果たす立役者となりましたが、マイナー競技故に苦しい環境の中で、それこそ開拓者として頑張り続けてきたアスリート人生だったと言います。その野田さんがJFA(日本サッカー協会)アンバサダー(サッカー大使)として子供たちの夢を育ませる取り組み『こころのプロジェクト』などを通して発信している「ジュニアスポーツ教育の大切さ」を語っていただきました。
『夢を育てるコーチング』
講師:野田朱美氏 〜「ジュニアスポーツ教育」がなぜ大切か〜 女子サッカー元日本代表 96年アトランタ五輪代表キャプテン ■スポーツには知性が必要だ──世界との差で感じたのはそれだった
「中学3年生で日本選抜(現日本代表)に選ばれて、世界と戦ってきて痛烈に感じたものはそこだった。私には技術もあるし、体格的にも小さなほうではないので、そこでは負けていない。では、何が欠けていたか。それはレセプションでのマナーであったり、(英語での)挨拶だったり、いわゆるインテリジェンス(知性)、その差で負けていた。 そう感じたのは私だけではなかった。現在、日本サッカー協会の田嶋幸三専務理事がU17の世界大会に行ったとき、宿舎であるホテルのレストランで見た選手たちの朝食風景をこう本に書いています。朝食にフランスの選手たちがやってきた。彼らは全員髪を整え、ポロシャツを着て、スラックスを穿いて、靴を履いていた。日本の選手たちは、寝癖のついた髪のまま、Tシャツにサンダル履きで、ポケットに手を突っ込んで入ってきた。それを見たときに愕然とした、と。世界大会というのは、出場チームが同じホテルに泊まるので、この時点で勝負あり、なんですね。」 ■ 良い試合をしても結局勝てないとなると、何かを変えない限り日本は永遠に世界に通用しない気がする
「これはドイツ戦に負けたとき、当時17歳の私が日記に書いた言葉です。そのためには何が必要か。それは、日本流サッカーを確立することです。今までの日本は南米スタイルとヨーロッパスタイルの間に挟まれて苦しんできた。それはなぜか。その時々に良いと言われるものを、ただマネてきただけで、日本らしさを確立してこなかったからです。」 ■ 日本サッカーが今、取り組んでいること、それはクリエイティブでたくましい「個」の育成
「日本が世界で活躍するために必要なこととして注目しているはテクニック、判断力、メンタルフィットネス、フィジカルなどの要素がしっかりと備わった選手の育成。さらに言語技術として、情報を取り出して解釈し、自分の考えを組み立てて判断する力を養うこと。「なぜ」「どうして」「なぜなら」まで突き詰めて考える習慣を身につけなければクリエイティブでたくましい選手は育たない。」 ■ サッカーを通して今、子供たちに何ができるか──それがJFAが取り組む「こころのプロジェクト」
「これは現役のJリーガーやなでしこリーガー、そのOBやOGなどが、「夢先生」となり、実際に小学校へ行って授業をする取り組みです。1時間目は体育の授業でボールを使ってゲームをします。ここで伝えたいのは、みんなが助け合って一つのことに取り組むということ。2時間目は私たち自身の経験を話しながら、夢を持つことの大切さを伝える「夢授業」です。夢シートに子供たち自身の夢を書いてもらい、そのために何をすべきかを思い描いてもらおうという授業です。」 ■ スポーツ一辺倒の人間にならないために、子供も大人も指導者も、みんなに学んで欲しい
「アスリートとして成功するためには、ある時期はスポーツに没頭しなければいけない。文武両立と言いながらも、それができないのが現状です。だから、日本のスポーツ界では現役を退いた選手のセカンドキャリアの道筋が少ない。マイナースポーツの選手は辞めてから本当に苦しんでいる。実際に私自身も大変でした。でも私には、W杯に出場し女子サッカーの道筋を切り開いた経験がある。ならばセカンドキャリアの道も切り拓けるのではないか。そう思って様々なことに取り組んでいます。学び方は人それぞれでいい。机上でも学べるし、人からも学べるし、現場でも学べる。見て、聞いて、そして考える。少しでも可能性があれば、まずチャレンジしてみる。それが必ず自分を成長させてくれる。そのことを、一人でも多くの皆さんに伝えたいと思っています。」 (5月31日:毎日インテシオ大会議室での講演より) |