SCIX 20th AnniversaryVol.2


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SCIX創設20周年WEB連載企画
―それぞれのSTORY―

志村 大智(しむら だいち)さん

キリンビール株式会社勤務
1994年兵庫県川西市生まれ

兵庫県川西市の自宅からSCIXの活動拠点・灘浜グラウンドまで片道2時間ー。それでも高校時代の3年間、楽しく通えたのは多様な環境に属する同世代の仲間たちと「ラグビー」という共通点を通して宗教や文化の違いを超えた交流ができたから。その貴重な経験とSCIXで育まれた「まずやってみる!」精神で、京大ラグビー部主将の重責を担い、現在は社会人コーチとして2022年の京大ラグビー部創部100周年に向けFW陣の強化に取り組んでいる。

きっかけは一枚のチラシ

 小学校3年生の時に地元の川西市ラグビースクールでラグビーを始めたのが僕のラグビーキャリアのスタートです。当時水泳をやっていまして、何か他のスポーツをしたいという想いがあったんです。いわゆる「ゆとり世代」で、小学校3年生の時から週休2日制になって土日がぽっかり空いてしまうので、週末にできるスポーツが何かないかな?というのがきっかけだったと思います。当時は野球、サッカーが王道だったんですけど、たまたま街で見かけたラグビースクールのチラシを見て、ラグビーのラの字も知らなかったんですけど、その日のうちに入部しました。

 入部して次の週にいきなり試合があって、すぐに出させてもらえたんですけど捻挫してしまって。「みっともないから足を引きずるな」って母に言われたのが記憶に残っています。そういう親なので、危ないからやめろということも言われずに伸び伸びとやらせてもらいました。

SCIXとの出会い

 中学を卒業した時にラグビースクールも引退して、甲陽学院高校にはラグビー部がなかったのでハンドボール部に入りました。ただ、ラグビーをもう一度やりたい気持ちがあって。たまたま同じ高校の友人が先にSCIXでラグビーをやっていて、高校1年生の時に彼が誘ってくれたのがきっかけで、その年の秋にSCIXに入部しました。

 川西から灘浜グラウンドまで通うのに片道2時間くらいかかるので、練習が終わって帰宅したら夜中の12時なんてこともありました。大阪方面や、僕より遠いところから来ている同期や後輩もいたので、帰りの電車はずっとみんなで喋りながら帰ってました。

でも、辞めようとは思わなかった

 最初は練習についていくのに必死で、しかも帰りは終電近くで、ふと「何でわざわざこんなことやってるんやろ?」と思った瞬間はありました(笑)。当時は強豪スクール出身者の方が多く、入部した当初はレベルの高さに圧倒されたというのが正直なところです。SCIX卒業後に大学ラグビーで活躍される先輩もたくさんいて、同期もみんな上手だったので、自分だけ2、3段階レベルが低いような感じでした。でも、ラグビーが好きで自分の意志で入部したので、辞めようと思ったことはありませんでした。

 試合に勝つ喜びを知ったことも大きかったかもしれません。SCIXに入るまでは、ほとんど試合に勝った経験がなく、勝とうが負けようが、ただラグビーというスポーツを純粋に楽しむだけでした。それが、SCIXに入部してすぐの練習試合で「試合に勝ったらこんなにも面白いんか!」という感覚を初めて味わったんです。それを機に、少しでも上手くなって勝利に貢献したいという向上心が芽生え出しました。

 あと、人工芝にナイター設備、クラブハウス…と、あれだけの素晴らしい環境でラグビーができるというのはなかなか無いですし、周りも上手いですし、元神戸製鋼ラグビー部で選手として活躍されたという経歴をお持ちのコーチ陣も丁寧に指導してくださったお陰で、とても楽しみながらラグビーができました。

SCIXだからこそできた経験

 高校ではハンドボール部に入って、SCIXでラグビーをやっていたので、クラブチームだからこその良さみたいなものは当時も感じていました。

 例えば、SCIXは色んなところから人が集まってきていて、「ラグビー」っていう共通点だけで繋がってるんですよね。そこが学校の部活との大きな違いだと思います。それだけみんなラグビーが好きで、ラグビーに魅力を感じているから、わざわざ平日に神戸に集まって遅くまでラグビーをするんだと思うんです。

 高校にラグビー部がなかったり、学校にラグビー部があっても勉強もしっかりしたいから、といった色んなバックボーンを持った人たちが集まっているので、多様な環境に属する人たちと交流するというのは高校生年代には貴重な経験だったと思います。

 たまたま僕の同期にはニュージーランド人が二人と、バングラデシュと日本のハーフもいて、多様な学年だったんですね。彼らは価値観や宗教的慣習の違いもあったんですけど、その違いを高校生ながらに知れましたし、そこがなんのハードルになることもなく一緒に目標に向かってラグビーができたというのはSCIXだからこそできた経験かなと思っています。

 最近、社会でも多様性っていう言葉を流行りのように聞きますけど。個人の価値観の違いを受け入れて、それを力に変えて、、、って、それを言葉として聞くだけでなく、高校生の多感な時期に経験できたっていうのは非常に大きかったと思います。それは僕にとってSCIXでのとても貴重な体験の一つです。

Libertyを求め「まずやってみる」

 大学受験を意識したのは高校3年生からで、正直、1、2年生の頃はそこそこに勉強をやっていた感じです(笑)。土曜日は午前中にハンドボール部の試合に行って、昼からSCIXの練習に行くという感じでした。よっぽど好きだったんでしょうね(笑)。ラグビー以外にも色んなスポーツをやったんですけど、一番ラグビーが好きなんだと思います。今もこうして続けていますし。当時は、ハンドボールとラグビーのどちらかに絞るという発想すらなかったです。スポーツ強豪校というわけでもなくバリバリスポーツをやるという環境ではなかったのと、SCIXも週2日の練習だったので、ハンドボールとラグビーの両立は可能でした。

 文も武も自分より極めている人が他にたくさんいるので、こんな話をするのはおこがましいんですけど、自分なりに大事だと思うことが二つあります。

 一つは、「まずやってみる」。最初に京大を受験するって決める時も、できない理由を挙げるとたくさんあったんですけど、そこは考えずに、まずは京大を受ける!ということを決めてしまうと。そうすると、じゃあ受かるためには何をすればいいか?という思考に自ずと移行できます。その上でマネジメントをしていくと意外とできるというか。勉強やスポーツに限った話ではないと思うんですけど、自分の能力って、やってみると思っていたよりも意外とできるってことが多いと思うんです。

 大学に入ってからも4年間ラグビーをやって、一度引退をしてから、大学院に進学してまたラグビー部に復帰したんです。ラグビーもやりながら、試合にも出て、研究もするっていうのは、当時そういった前例もなくて、大学院の研究はおろそかにできない環境ではあったんですけど、どっちもやる!と決めてしまえば、どうすればできるのか?という風に考えられるので。

 例えば、曜日によって研究に専念して空き時間に自分でトレーニングをする日、ラグビーの練習を優先させてもらう日といった感じで組み立てていきました。もちろん、ラグビーでも研究でも、成果を出すための努力は最大限するという前提ですが、その自由を許容いただいていました。ここでいう自由とは、Freedomではなく、Libertyのイメージです。自分の意志を伝え、努力によって自由を勝ち取ることも、時には大切かもしれません。とはいえ、それを許してくれる環境かどうかというのは自分で決められることはないので、やはり、周囲の理解やサポートがもう一つの大事な要素だと思います。そういう意味でSCIXは週2回の練習で、ラグビーだけやれば良いというチームではなくて勉強や学校で部活をすることも容認してくれる環境でしたし、大学の研究室やラグビー部も、そのやり方に理解を示してくれていました。文武両道を推進していくには、先生や指導者といった大人たち、チームや学校も含めた周囲が、その選択や自由を認め、チャレンジを後押しできるような環境を整備することがとても大事だと思います。

「やる前から無理って言うな」

 「まずやってみる!」このスピリッツはSCIXで育まれたマインドです。SCIX入部当時、武藤規夫さんとともにコーチをされていたのが今村順一さんでした。今村さんは普段から誰とでも分け隔てなくコミュニケーションを取られる方で、中高生とも一緒にプレーをしながら、非常に多くのことを教えて下さいました。その今村さんがおっしゃったことで、一番印象的だったのが、「やる前から無理って言うな」という言葉でした。練習メニューはいつも今村さんが考えていらしたんですが、時には少し難易度が高く感じられるものもありました。そんな中でも、皆にチャレンジを促す様な声掛けをして下さるのですが、ある時、とある選手がそれに対してネガティブな反応をした際に、「やる前から無理って言うなよ。それは絶対ナシにしよう」とおっしゃったことがありました。それは直接自分に向けられた言葉ではなかったんですが、当時の僕には、なぜかその言葉がとても強く刺さりました。

 それから少しずつですが、積極性やチャレンジ精神を育んでいき、SCIXの3年間でラグビーも上達できたと感じています。ラグビー以外でもその想いは持ち続け、これまで多くの失敗もありましたが、小さな成功体験を積み重ねていくうちに、「まずやってみる。そしたら意外にできる」という意識が根付いてきた様に思います。

ラグビーを続けるモチベーション

 単純にラグビーが好きだっていうのと、もっとラグビーが上手になりたいっていうのが一番純粋なラグビーを続けるモチベーションでした。大学に入る前から大学でラグビー部に入るのは決めていました。SCIXでは周りのレベルが高くて、高校3年間はみんなに引っ張ってもらってラグビーをやっていた感覚があったので、大学では自分がチームを引っ張りたいという想いがありました。大学では運良く1年の秋から試合に出させてもらって、4年でキャプテンもさせてもらいました。

 そのきっかけになったことがあったんです。当時、SCIXでスクラムコーチをしてくださっていた元神戸製鋼ラグビー部の小山恵生さんが、最後の県民大会の決勝トーナメントで完敗した直後に、「センスあるから大学でも続けた方がいいよ」って言ってくれたんです。負けた後だったので励ましの意味で、お世辞もあったと思うんですけどね(笑)。純粋に嬉しくて、その時に大学でラグビー部に入ることを決めました。

 それともう一つ、大きなモチベーションになっているのが試合後に対戦相手とビールを飲む瞬間です。あれは格別です(笑)。試合中にどれだけタフにぶつかり合ったとしても、試合が終われば友人としてビールを飲み交わし、互いの健闘を称え合う。こうした文化はラグビーならではだと思いますが、とても素晴らしい文化だと感じています。

 2018年に学士ラガー倶楽部というチームで英国遠征に行って、Kew Occasionalsというオックスフォード大・ケンブリッジ大のOBチームと対戦する機会があったんです。彼らは試合以上に試合後の飲み会に対して真剣で、アフターマッチファンクションは大盛り上がりでした。ただ、それだけでは終わらず、勢い余って僕たちの遠征バスにビール片手に乗り込んで来て、大合唱の中ホテルまで着いてきて、そのままロンドンの夜の街に繰り出しました。とても楽しかった思い出です。さらに、その1年後、そのメンバーの一人が友人とともに日本に来るということで、京都で再会し、もてなしました。ラグビーで一度戦っただけで、文化や言葉の壁をも超えて友人になれる。これもラグビーをやっていて良かったと思える瞬間の一つです。

ラグビーから学んだことを社会に活かす

 多くのことをラグビーから学び、それが自身の基礎となっていて、それは社会でも活かせる能力だと思いますし、活かしたいと思っています。例えば、仕事をする上で、いいパフォーマンスを発揮するためには良い準備が必要だと思いますが、心身ともにコンディションを整えることは、ラグビーにも仕事にも共通して求められるスキルだと思います。また、これはまだまだ伸ばしていくべきスキルですが、組織のリーダーとして最大の成果をあげるためには、ラグビーの様にバラバラの個性を同じ方向に向ける能力が必要だと感じています。決して画一化させるのではなく、個々の強みを最大限発揮させ、それらを上手く融合することで成果に繋げられるのが、良いリーダーだと感じます。社会で活躍されるリーダーにラグビー出身者が少なからずいることも、15人という大人数でボールを繋ぎ、トライを目指すラグビーというスポーツの競技特性も多分に影響しているのかもしれません。

ずっとラグビーに関わり、人生を豊かに

 今後もプレーヤーとして体の動く限りラグビーを続けたいです。最近ゴルフを始めたんですけど、ゴルフをする方ってゴルフは歳を重ねてもできるって言うんですよね。でも、僕はラグビーもそうだと思っていて。ラグビーを始めてからずっとプロップ一筋なんですけど、特にプロップは30歳を過ぎてからが一人前と言われるので。僕はまだ27で半人前なので、少なくとも30まではやらないといけないなと思っていますし、できる限り続けたいと思っています。

 あと、ラグビーには何かしらの形でずっと携わっていければと思っています。これまでずっとラグビーをやってきた中で、非常に多くの素晴らしいご縁に恵まれてきました。ラグビー経験者はいい意味で仲間意識が強く、仲間が困っているときは手を差し伸べることを厭わず、またそれに一切の見返りを求めたりしない。そんな魅力的な方々との出会いが多くありました。たとえプレーができなくなっても、ラグビーに携わっていれば、そうしたご縁も繋がり、人生も豊かになるような気がします。京大同様、SCIXにもとてもお世話になったので、何かしらの形で恩返しさせていただきたい気持ちはあります。平尾誠二さんがSCIXを創設されなければ、僕もチームメイトもラグビーを続けることすらできませんでしたので、心から感謝しています。

 こんなことを言うのはおこがましいかもしれませんが、20年前、SCIX創設時点での平尾さんのビジョンや先を読む力には感服させられてばかりですし、その一部に携われたことをとても光栄に感じます。今後の日本ラグビー界の発展において、SCIXの進む道、果たす役割はとても価値あるものになり得ると感じています。僕も少しでもそのお手伝いができれば嬉しく思います。

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SCIXの同世代の仲間たちと(1列目の右端)

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現在もSCIX一般の部でプレーを続ける(前列右から2人目)

インタビュー・文/中野里美