■ SCIXスポーツ・インテリジェンス講座
第1回「スポーツを考える」 講師:平尾誠二氏
日時:2012年4月28日 19:00〜20:30 
会場:神戸国際会館研修室

4年ぶりとなるSCIXスポーツ・インテリジェンス講座が復活し、第一回目となるこの日は、SCIX理事長の平尾誠二氏が「スポーツを考える」というテーマで講壇に立ち、約100名の方が聴講に訪れてくださいました。
平尾氏は、“スポーツの現状”と“スポーツの力とは何か”について、まずお話を始めました。
昭和22年に初めて文科省によるスポーツ立国戦略が作られ、昭和36年にスポーツ振興法が制定されました。その後、約50年ぶりに平成23年スポーツ基本法として大きく改正。これは、スポーツの存在意義が大きく変わったからで、主な要因は以下の4つであると平尾氏は説明されました。
要因@ 地域スポーツの成長、拡大
要因A プロスポーツの大幅な発展
要因B 技術の飛躍的な進歩
要因C 国際化

以上がスポーツの現状としての前置き部分でで、「スポーツとは何なのか?」というテーマに立ち返ると、平尾氏は、“持論”と前置きした後で「遊び」だとおっしゃいました。
みなさんも、一番初めにスポーツを始めたときの気持ちを思い出してほしい。遊び(楽しみ)だったはず。しかし、いつの頃からかこの気持ちがなくなりどこか義務化されてしまう。それはなぜなのか考えてほしい。
と、平尾氏は問いかけました。
特にプロ選手には、この「楽しむ」気持ちを持ちつづけてほしいのにだんだんとそうではなくなってくるそうです。
ここで、神戸大学の金井壽宏教授が行わったモチベーションについての実験例を紹介してくださいました。
まず、絵を描くことが好きな人を集め、AグループとBグループに分け、「何をしていてもいい」と伝えると、両グループとも延々と絵を描きつづけているそうです。そこで途中から、Bチームのメンバーにだけ絵を描くとお金を渡すことにしました。すると、驚いたことにお金を渡すのを止めると絵を描くことを止めてしまったという実験結果になったそうです。
こういった例からも平尾氏は、「楽しむ」気持ちの重要性をお話しされていました。しかし、一方で最近の若い子には遊びがすぎるという特徴も見られるそうです。そこで平尾氏が最近必要だと感じるようになったことが“理不尽さ”だと言います。

理不尽なことは、社会に出れば溢れており、そのことはスポーツで学べることの一つ。そのときは腹が立っていても、自分が大人になった時にそのとき叱ってくれた人の気持ちがわかるもの。ただ、このとき叱る側の人が、自分の体裁だけを考えて叱っていると絶対に選手や子供たちは離れていくと、平尾氏は言葉を添えることを忘れませんでした。
自己を捨て、相手を思ってのことなら心は繋がる、指導は伝わる。それが人間。それが生きる力だと、平尾氏は力強くおっしゃっていました。
スポーツが教育的観点からいって意味があるのは、「できなかったことができるようになる経験」。どんなに小さなことでも自分の意志で始め、努力し達成できた子供は、大人になってからも決してしらけない。簡単に諦めない。時に理不尽な思いをしながらも、「なにくそ」と思える気持ちは大事。最近は情報過多で理屈だけは立派という人間が多いけれど、情報を整理し判断、行動していくのは理屈を超えた感情、経験であるはずと、平尾氏はお話しされ、また、いまのスポーツで大切なのは、「戦力・戦略・戦闘」の3つだとつづけられました。
戦力・戦略はある程度見えるけれど、戦闘(個々の戦う意欲、死ぬ気でくるような迫力、狂気のようなもの)は目に見えない。この点は、チームとしても伸びしろになる部分なので指導者の方も見守ってほしいとのことでした。

最後に、今日は根性論ばかりになったけれどと少し笑われた後、それでも理屈では学べないものがある。指導者として第一に愛情があるなら、間違っていることはないと思う、と締めくくられました。

その後、質疑応答に移り、聴講者の方から熱心な質問をいただきました。
以下、一例です。
Q.高校のクラブで指導に当たっています。「戦力・戦略・戦闘」のお話に共感を覚えました。
いまの高校生は素直で言われたとおり練習はするが、いざ試合になるとガッツがなく狂気には程遠いお坊ちゃんの集まりです。「戦闘」を鍛えるのはどうすればよいですか?
A.今の世の中は、戦闘力が高すぎるとつまはじきにされる。ただ、マンモスに勝ちあらゆる震災に耐え生き残ったDNAの中には、必ず強い戦闘力が潜んでいるはず。
だから、いま大人しい子供たちにはむしろ伸びしろがあるのだと思って指導にあたってほしい。くっそーと思う気持ち、何かのきっかけでそれが爆発することもある。だからずっと見守っていくこと。そして、もしいま温和すぎるチームカルチャーで戦闘力のあるタイプが浮いているのであれば、その選手を褒めるなどチームカルチャーを変えていくことも必要だと思う。

土曜日の夜7時開始という時間帯にもかかわらず多くの方が足を運び、熱心に耳を傾けてくださいました。
この講座は、残り3回開催されます。



 
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